工務店女子が伝えたい家づくり

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判断の基準は「好き」
それとも「安心」?

現在の暮らしには欠かせない「衣・食・住」の住に携わる私たちの仕事ですが、このところ、衣・食と同じくして、住まい手も色々な方法で家づくりにアプローチしているようです。

誰しもがSNSを利用し、ECサイトでお取り寄せ、食材や、お洋服もネット通販で世界中のどんなものでも手に入る時代です。
多様化の波は家づくりの分野にも押し寄せています。情報は昔のように雑誌や本だけでなくネット上に溢れ、こぼれ落ちている感じです。
そんな入口のところでは、特にビジュアルに訴えかけたものは、人の目に留まりやすいのは確かですので「なんとなく好き」だと思われなければ、この先工務店と住まい手とが繋がる手段は乏しくなる一方です。

家づくりにおいてビジュアルを大きく左右するもの。

ひとつは外観
もうひとつはインテリア

家づくりについて気になり出した方が、ふと町を見渡してみて、自分はこんな感じの家が好きだから、こういう外観にして欲しいというのが要望であったり、インテリアは外国のどこかの街のようなものにしたいと思っているんです、と言われたこともあります。
それは悪いことではないと思います。好きな服を着て自分らしく暮らすのと同じ感覚だと思いますので、自分らしさを大切にされていると言えると思います。

でも、もう1度考慮していただくことは、一生この服しか着られないとしても後悔しないか、ということです。そうであるなら、それは間違っていないと思います。
住む人・家を建てる人が自分で決めて、そこでの暮らしに幸せを感じられることが何より大切です。

その判断、難しいから悩んでいるんです! って聞こえてきそうです。
私は人間も動物だから「好き」か「嫌い」を感覚で判断する能力を信じています。感覚は鍛えることで発達するものです。
デザインを考える前に、それを作る材料についてもっと興味を持ってもらいたいと思います。そうしたら、別の方向から見えてくるものがあるから。

まずは自然素材の代表格、「木」について、身の回りにある木製(本物の木だと思っていたものがそうではない場合があるので注意)のものを探してみてください。
ありますか? 住んでいる床や壁はどうでしょう? テーブルや椅子はどうでしょうか? 意識して改めて見てみるといいですね。

町の工務店では、この本物の木を使って建物づくりをしている会社も多いと思います。わたしたちも木をたくさん使う家づくりをしていますが、とはいえ、大規模な建築を除いても、実際に人が触れる部分や目に入るところに木を使った家づくりをしてる工務店ばかりというわけでもありません。

それは、どうしてでしょう?
理由の一つに、住まい手が「木」の性質をちゃんと理解できていないために、取り入れたくてもできない、ということが起きているんです。
木は伸び縮みしたり、少しは反ったり返したり、建具(扉)も住みだしてから動きが悪くなったりもあり得ます。私も、クライアントとのお話中にも、それ自体は完璧に抑えることはほぼ不可能ではないかと思いますと伝えています。その際は「自分の実家や祖父母の家でも経験しているし、わかります」と言われる方が多いです。何十年という家の歴史の中で、木製のものは手入れをして調整をしながらお付き合いしていけばよいものだと経験上理解できているから出てくる言葉なのだと思います。

ここで「実家や祖父母の家での経験」が、その人が判断するためにとても大きな影響を与えていることが分かります。そういう経験がなくとも、自然にふれる機会が多かったという人、自分でDIYやものづくりをすることが好きな人も、同じような感覚をもっている人が多い気がしています。

長い年月を共に暮らす家だから、肌に触れる衣服のように、良いものを見て、触って暮らせることが人に与える影響って大きいと思いますが、なにより自分や家族が好きなものに囲まれて暮らすことが何よりまずは大切なことであり、そのあとにくっついてくる、お手入れや使い方などを受け入れることになります。

心配性な人は、ここで順番が逆になってしまうんですよね。
心配になってカタログに載っている商品を組み合わせて家づくりをする方や、その方法をすすめる業者がたくさん存在するのは、この「心配」が原因で起こる不安が理由ではないかと思います。
例えを一つあげてみますと、私たちの工務店では、キッチンの天板に木を採用する方がたくさんいらっしゃいます。見学会などで見たものが素敵だから木製の天板にしたいと言われた方も、打ち合わせの途中で、濡れた時はどうなるだろうか、熱いものを置いたらどうなるでしょう、醤油をこぼしたら色がつきますか、という心配事を相談されます。木の食器やまないたなどの小さなものは自分の経験から想像ができるので、その「物」が好きかどうかで判断ができるのですが、少し大きな家具や家となると自分の想像力の限界を超えてしまい、不安のほうがどんどん大きくなって、やっぱり違う素材に変えたほうがいいかもしれない、と判断の基準が「好き」から「安心」にかわってしまいます。

ただ一方で、印象だけで決めてしまうと良い結果にならないこともあります。
先に言ったような木の特徴を理解せずに使用した結果、木と木の隙間ができたり、動きが悪くなったりしたときに、こんな筈では無かったと心配になり、時にはクレームとして扱わざるを得ないこともあるでしょう。家としては問題ないことでも、壊して作り直したりする義務が工務店に課せられるとしたら、会社はつぶれてしまいそうな事態になるかもしれません。
そうした行き違いからクレームとなることを避けるために、打開策として工業製品を使っている物件もよく見ます。こちらの素材を使うこと自体が悪いわけではありません。工事する側からしたら、プリントされた木目模様は安価で、施工者による出来不出来も少ないので一定数同じクオリティで施工可能です。しかも工期も短くでき都合よく使うことが出来るものなのです。

では、つまりは何を根拠に決めたらいいのかと言ったら、これしかないように思います。
長い年月をともに暮らす家だから、年月を経て人も家も年を重ねたとき、古くなったけれど良い年のとり方をしたなと思えるものがどういうものなのかを、あなたが想像できるかどうか?
感性で見極める人もいるとは思うけれど、知らなくては選択のしようがないのも事実です。しかし、少しばかりの知識や経験があれば「木」がどのように変わっていくものか、誰もが簡単に想像し、理解でき、何も心配する必要がないと安心して選択することが出来るようになります。

このような考えを持って長きに渡り家づくりをしてきている工務店の方たちや職人さんたちは、ちゃんと考えて素材を使ってくれていますよ。そして、本物の素材を見たり、触れたりしながら育まれた感性は、次の世代にも必ず受け継がれていきます。脈々とつづいてきたものを、未来の子供たちにも伝えていくことは、私たち大人の大切な役割だと思います。
しっかり吟味して、納得してから決めればよいと思います。家は一生ものだから。


人間も生きもの。
自分だったら、竹のかごのが居心地よさそう。

著者について

石原智葉

石原智葉いしはらともよ
工務店女子
愛知県西尾市生まれ。釣りが好き。月を見るのが好き。地元食材や、地元で作られたものが好き。 シンプルな暮らしにあこがれる。これは、まだ実戦途中。 設計の仕事では、お客様のプライベートにぐっと入り込んでお話しします。たくさん考えて出した答えは後悔することが少ないので、満足できる家づくりに繋がります。お互いに信頼しあい、人間関係を築くことも家づくりに携わる上で大事な使命だと考えています。
イシハラスタイルにて、家づくりの仕事をしています。

連載について

自然素材を使った家。 日々の住まいのメンテナンス。 工務店にとっては当たり前のことも、大手メーカーにはできなかったりします。 リノベーションも、工務店の力の発揮どころ。 けれど、そんな事実が伝わらず、家はどれも同じ、とばかりに建てて(買って)しまう人がとても多いです。 スクラップ&ビルドはやめて、地元の工務店・職人に家づくりをお願いしたら、どんなことが起こるのか。 工務店女子・石原智葉さんの「伝えたい」という気持ちにあふれる声をお聞きください。