工務店女子が伝えたい家づくり

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いちトークセッションで
終わらせてはいけない
堀部安嗣さん×伊藤まさこさん対談

いちトークセッションでは終わらせてはいけない、と感じる話がありましたので、ご紹介します。

「ただいま」の場所。終の住み処を考える。https://www.1101.com/n/weeksdays/contents/12901
(weeksdays)

建築家の堀部安嗣さんと人気スタイリストの伊藤まさこさんの対談です。私は人気スタイリストとしての伊藤まさこさんを以前より存じており、雑誌やWEBで伊藤さんのスタイリングやご自身のライフスタイルの紹介など、SNSでの発信や書籍などを楽しみにしている、1人の読者です。今回のこの、堀部安嗣さんと伊藤まさこさんの対談も、伊藤まさこさんのライフスタイルへの興味から読んでいました。

この度、工務店女子の考える家づくりの連載の中で、この対談を紹介させていただくことになり、あらためて読み返してみると、そこには建築する側と依頼者(施主)側、それぞれの思いが詰まった内容だと気付かされます。

著名建築家と人気スタイリストのお二人の対談なのですが、とても心の奥深いところで「人間のあるべき姿」を感じずにいられない。ある意味、私たち建築に日々携わるものへ投げかけられたメッセージ。
この対談をふまえた、モノづくり・家づくりがなされていったら、なんてみんな幸せなんだろう、と思ったんです。それは、私の個人的な共感にとどめておいてはもったいない! と思える内容です。

伊藤さんといえば、衣食住すべてにおいて女性のあこがれ的存在。女性の多くは、発信されるコンテンツを読んでは、彼女のものを見る観点や、もの選びのセンスを身に付けたいと思わせてくれる方なのです。現に、工務店の仕事をする中で、少なからず女性のクライアントから「伊藤まさこさんの住まい方」の話がでることがあるのです。
特に女性にとって、家づくりはライフスタイルの確立であると思います。ただイメージである事が多いので、どんな暮らしがしたいのか、作り手に理解してもらおうとしても、漠然とした情報をうまく、正確に伝えることが得意な人は少ないのです。

でも、ひとたび事務所に置いてある伊藤さんの書籍をクライアントに見てもらうと「言葉にするのは難しいけれど、なんだか素敵。こういう物をもち、豊かに暮らす生活の似合う家が好き、こんな暮らしのできる人になりたい」となります。
工務店女子の間では、こうした光景、経験上少なくないんじゃないかと、私は感じています。

家づくりの最中に、伊藤まさこさんの話題が少なからず出てきます。クライアントの持つ漠然とした生活のイメージも、伊藤さんの書籍を通じて、見えるようになっていきます。

今回、この対談で伊藤さんが「家」(インテリアだけではなく具体的に住宅という観点で)について話された堀部安嗣さんとのお話の中に、これからの家づくりに大きな影響を与えてくれる「期待」のようなものを見出しました。

家づくりは、しっかり舵取りをする人が居ないと、好ましくない方向へ進んでしまうことがあります。
例えば、私のお客様でも写真やSNSの画像をスクラップしてご自分の好みを伝えてくれようと努力をしてくれます。でもそれをただそっくりそのまま真似して作ることが、必ずしもお客様の希望を叶えることには繋がりません。文中にもあるように敷地の状況や(都会と郊外などの違い)、住む人の性格、年齢、さまざまな状況の変化を考慮し、良い形で実現できるようお話をする必要があります。

この7回の対談の中で、堀部さんがおっしゃっているのは家づくりを超えた「人間のあるべき姿・住まいの根源」のような内容だと私は受け取ったのですが、伊藤まさこさんとのお話の形で読み進めるうち、おふたりの話が終の住み処にも至り、それは今から家づくりを考える若者(とは限りませんね)が、家づくりの最初の段階で知るべき大切な内容であり、しかし、どうしてなかなか私たちが伝えたくても伝えるのが難しい内容であると感じました。

若くて元気のあるときに、家づくりを考えるものだから、少しばかりの無理や我慢をした家づくりをしていまいがちなことや、どうしても「家」を個で考えてしまうのだけれど、本来家とは町の一部であって、その家のあるコミュニティで共存していくことの必要性のお話など、とても大切なことを話されています。

そして、サブタイトル「終の住み処」を考える、ですが、対談の内容からははずれますが、私たちの関わる施主の多くは、一生に一度の家づくりです。若くて元気な時に建てる家だけれども、いつか、その家が、主にとって終の住み処になり得るものであること、たくさんの経験をしてきた私たちが、しっかりと伝えていかなくてはいけない。どこかで、元気のある今や、近い将来に焦点をあてて楽しく家づくりする事ばかりに囚われてはいないでしょうか。「終の住み処」は、年配者だけの問題と捉えるのではなく、家を建てようと思いたったら、一度はしっかりと向かいあうべき家づくりの形だと、考えさせられました。

堀部さんが、「伊藤さんは建築と市井の方々をつなぐ人」と仰っています。建築は、特に住宅はヒトにとって「衣食住」の住でもあり、大切で身近なる要素です。決して閉ざされ分かりづらいものであるべきではないと私も思いますが、堀部さんの言葉をお借りすると、市井の人と共通の言語と接点を持っていない、だから、対話が難しく、意思疎通が困難になりつつある。そのため人々は理解することを諦めてしまうのかもしれません。私たちも、うまく伝わらない相手に対して、どこか諦めてしまい、もっと違う、伝わりやすい方法で相手に家づくりを納得してもらおうとしているのかもしれません。

そんな人たちと建築とを繋げてくれる人が必要なのだと堀部さんが感じていらっしゃること、そして、人と住まいについて最も大切なことを伝えてくれる身近にいてお手本となってくれるべきヒトが必要なのだと仰っているのだと思うのです。

この対談を、住宅にたずさわる建築を仕事としている沢山の人にも、ぜひ読んでもらえたら、と思います。
そして、家づくりを考えてわたしのところに来てくださるクライアントにも、最初に、ぜひ読んでもらおうと思っています。それほどに、深く、大切なお話なのだ、と思います。

最後に、市井と建築をつなぐ人が、地域にたくさんある、工務店であり、そこにいる工務店女子である。といえる存在になれるよう、この連載を続けていきたいと思います。

著者について

石原智葉

石原智葉いしはらともよ
工務店女子
愛知県西尾市生まれ。釣りが好き。月を見るのが好き。地元食材や、地元で作られたものが好き。 シンプルな暮らしにあこがれる。これは、まだ実戦途中。 設計の仕事では、お客様のプライベートにぐっと入り込んでお話しします。たくさん考えて出した答えは後悔することが少ないので、満足できる家づくりに繋がります。お互いに信頼しあい、人間関係を築くことも家づくりに携わる上で大事な使命だと考えています。
イシハラスタイルにて、家づくりの仕事をしています。

連載について

自然素材を使った家。 日々の住まいのメンテナンス。 工務店にとっては当たり前のことも、大手メーカーにはできなかったりします。 リノベーションも、工務店の力の発揮どころ。 けれど、そんな事実が伝わらず、家はどれも同じ、とばかりに建てて(買って)しまう人がとても多いです。 スクラップ&ビルドはやめて、地元の工務店・職人に家づくりをお願いしたら、どんなことが起こるのか。 工務店女子・石原智葉さんの「伝えたい」という気持ちにあふれる声をお聞きください。