ぐるり雑考
第3回
非構成的エンカウンターグループ
今日から穂高の山の中で、8日間のワークショップが始まる。この話をすると「8日間も!?」と驚く人が多い。さらに「テーマはない」と伝えると『マジわかんない』という顔をされる。
「決まっているのはご飯の時間だけ」「あとは広めの部屋で、集まった人たち(14名程度)と輪になって座り、話したくなった人が話すだけ」とつづけると、『そのなにが面白いの?』『そんなものにお金を払う人がいるってどういうこと?』という心の中の言葉が、テロップのように浮かんで見えるような見えないような。
でも目には『なにそれー!』と好奇心を浮かべている人が多い。“あらかじめ用意された落としどころがない”という設定に、どこか惹かれるものがあるのだろう。
このワークショップには、なにが得られるとか、学べるとか、成長できるといった謳い文句は一切添えられていない。一般的には「非構成的エンカウンターグループ」と呼ばれるもので、カウンセリングにおける「傾聴」という関与姿勢を提示したカール・ロジャース(心理学者、1902〜1987)が考案したプログラムだ。
ファシリテーターは、テーマやアクティビティの提案も、議題の整理も、示唆的な関与も行わない。同じ輪の中に腰を下ろして、みんなの話を聞く。役割の定義は曖昧で、少なくとも「ファシリテートする/される」といった、「売り/買い」のような関係は取らない。
ちなみにそのファシリテーションは、大阪のH氏にお願いしている。僕の立場は主催者で、始まったら参加メンバーの一人になる。そんな形で年に一度、秋の季節に開いてきてちょうど10年経った。落としどころの決まっていない、誘導性のない、参加者自身がつくり出す場のあり方を、たっぷり体験してみたかったのだ。
テーマがないので、おのずと沈黙が多くなる。でも空虚ではない。言葉になる前のいろいろな感覚がみっしり含まれていて、その沈黙の中からあらわれる言葉には“重さ”がある。暗いとかネガティブという意味ではなくて、ちゃんと重さのある言葉が生まれやすくなるというか。そんな言葉と一人ひとりの存在感で8日間は構築されてゆく。
調味料も水も一切加えない野菜スープのよう。僕はその味わいが好きだ。でも今年でやめようと思う。あきた。(つづく)