ぐるり雑考

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それがないと

20年前に宮田識さんが聞かせてくれた「違和感を手放さない」という話(前回)を書いたあと、8月のWEBびお養成塾の発話録が届いた。あらためて読み返した当日の彼の語りが、生き生きとしていて、僕はとてもよかったので、“つづき”として紹介させてください。

宮田 ここに、一人として同じ人がいないわけです。お父さんもお母さんも、先祖も、生まれた場所も。兄弟も、教育の仕方も、家のかたちも違う。それぞれ、違うことを数十年かさねてきた人ばかりで、思うことも感じることも、他の人と違う。
「引っかかり」とか「違和感」というのはそういうこと。で、それは他の人には、本来的にわからないんですよ。

──違うから。

宮田 まったく違う。

──誰も引っかからないところで、なにか妙に引っかかっていたり。

宮田 そう。しているはず。他の人と違うことを明らかにすると、若い子だとイジメの原因にもなったりするし、ないことにしてしまう方が生きやすいんだろうけど。
でもそれを、自分が純粋に「なんか変」と思うことを、大事にしていったらどうなるのか。たとえばそれが10年経ったら、ものすごいことになっているんじゃないかな。素晴らしいことだと思う。それが自分の個性になってゆくよね。
今からでもいいから。何気ない。道端に咲いている花でもいいから、そこから感じること。「今日の空はなんでこんなにきれいなんだろう」と思ったことからちょっと考える。「昨日、あんなに雨が降ったから」とか、「風が強かったからね」とか。
「なんかきれい」と感じたものを、ちょっと考えてみて。わからなかったらまた次の機会に。そんなふうにしているうちに、だんだん「きれい」のカタチが見えてくるよね。「ああ。自分はこういうのをきれいと思うんだ」「こういうの嫌なんだ」というのが見えてくる。洋服の選び方や着方もそこと合ってくるし、化粧の仕方も変わるし、自分の中で「嫌い」と「いい」の関係が見えてくる。自分しか持っていないものが出てくる。

──感じていることを、ちゃんと10年くらい大事にすると。

宮田 いやいや、もう一生(笑)。歳を重ねても、その感覚だけは忘れない方がいいかなと思う。表現をしようと思ったらね。ものを考えようと。自分の好きなことをやろうと思ったら、それがないと出来ないから。

 

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。