<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること
第2回
11月:馬たちが帰ってくる
東北の11月は変化の激しい季節です。木枯らしが吹く。霜が降りる。氷が張る。雪が降る。
そんな冬の前触れがつぎつぎとやってきます。けれども穏やかな晴れた日は空が澄み渡って清々しく、森を歩くと枯れ葉がかさかさ音を立てて心地いいものです。あんなにいた虫たちの姿はあまり見かけなくなりました。見通しがよくなったこともあるでしょう、哺乳類と出会う機会は逆に増えるようです。畑の残りの食べ物を求めてか森から出てきたカモシカと出くわしたり、おそらく兄弟ギツネだと思いますが、向こうの草原で2匹じゃれあっていたり。リスが落葉したカラマツを勢いよく駆け上がれば、夕暮れ雄ジカの切ないようなかん高い声が聞こえてきます。野鳥もよく見えるようになります。カラ類が小さな群れをなして枝から枝を渡っていき、カケスたちが森から出たり入ったり騒いでいます。里の川にはハクチョウが飛来しました。
山下げ––馬が山里に帰る
11月上旬、「山下げ」といって、5月の終わりのころから5ヶ月を高原で過ごした4頭の馬たちが帰ってきます。クイーンズメドウで暮らすエリアナ、サイアナ、エリ。うちで暮らすジンガ郎。
馬をかつて飼育していた年配の人に聞くと、昔は、秋、食べる草が寂しくなってくると勝手に馬たちが歩いて降りてきたものだといいます。また、車が通る道がなかったから、みんなで歩いて高原まで行き、自分の馬を探して、一緒に歩いて帰ってきたものだといいます。今は馬運車といってそれぞれの農家や馬の持ち主が専用のトラックに乗せて連れ帰るというのが一般的です。
数年前、クイーンズメドウの事業オーナーである今井隆氏が、昔ながらのやり方をやってみたいと発案しました。つまり春には、人も馬も徒歩で高原に行き、秋になると、ふたたび徒歩で人と馬が帰ってくるという昔のスタイルで。できるだろうか。わけなくできるでしょう、やりましょう。ということで3年ほど前から、馬とともに歩いたり、馬に乗ったりして山上げ、山下げをやるようになりました。標高差約500メートル、13キロほどの道のりです。
里の放牧––寒い冬の暮らし方
山下げしてきた馬たちを放牧する晩秋から初冬の山里は、ススキやササやヨモギに混じって牧草もまだ枯れずに残っていて、エリアナ、サイアナ、エリは少しのあいだそうしたものを食べます。牡のアルとサイも、虫がいなくなったので、休耕している棚田を含む広々とした放牧地に移動します。彼らの淡い栗毛の被毛と白いたてがみと尾は、まるでススキのような色の配色で、ススキ原に入ると遠目にわからないぐらいです。太陽は低い軌道で西の山に傾いていきます。
牝馬たち牡馬たちは、それぞれ、日中も夜も外で過ごします。いつでも自由に動けること、仲間と好きなときに身体的接触が行えることで、みんなストレスを感じることなく季節の巡りの中で暮らしています。夏の間、冬に備えて被毛を冬毛にし、皮下脂肪をしっかり蓄え、常時草(干し草)を食べるなどすることで、馬たちは寒冷に対しては驚くほどタフです。馬房との出入りを自由しているのですが、夏のアブの盛りを除くと、雨の日も風の日も馬房に入ることは滅多にありません。