移住できるかな

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最初に何をすればいい?

西本和美 移住できるかな

移住を決心したら、まず何をすべきか? 私は、農家の暮らしを体験することにしました。農村の春夏秋冬には、日々どのような労働があるのか? もし体力と能力がついていけなければ、移住した集落に迷惑を掛けることになる。
各自治体には、新規就農者を支援するプログラムがあります。若い子育て夫婦なら、移住すれば交付金を支給する市町村も。そうした支援の多くは若者対象なので、還暦前の身では自力で何とかするしかありません。
そこで頼りになるのは親戚。幸い故郷の大分県には農業を営む叔母夫婦がいます。米と野菜を作り、椎茸を栽培し、炭を焼く。近頃では珍しい本格的な専業農家です。法事の集まりで弟子入りを申し込むと、叔母夫婦は快く引き受けてくれました。住居は同じく従兄弟が、住む人の居なくなった実家を提供してくれます。
わくわく胸を躍らせて東京に戻り、銀座モンベルでフィールドウェアを買いそろえる。叔母夫婦の住まいは集落から離れた川上の一軒家。万が一、滑って谷底に落ちたとき発見しやすいよう、派手なピンク色を選びます。通勤用にはスズキの50ccバイクを購入。いちばん心配な体力面は、毎朝のラジオ体操を始めます。
そうして半年後の晩夏、豊後高田市田染荘ぶんごたかだしたしぶのしょうで、一年間の農家体験を始めました。東京と大分とを行ったり来たりの二地域居住です。

移住できるかな「最初に何をすればいい?」

中世の地割りを残す、大分県豊後高田市田染荘。

初出勤の朝、50ccバイクで約20分の道程に、何度も急ブレーキを掛けることになりました。視界をふさぐように飛び交うトンボやスズメ、突然横切るヘビやカラス。いまさらながら「田舎道のバイク走行は危険だ」という友人のアドバイスを思い出しました……。
初日の野良仕事は草刈りです。驚いたことに自分たちの田畑だけでなく、周辺の水路や道路、河川にはびこる葦や蔓草なども刈ります。もし農村に出かけたとき、川端に降りて澄んだ水に手を入れたり魚影を眺めたりできるなら、それは地元の人々の手入れの賜物です。里地里山の風景は、決して天然ではないのです。

移住できるかな「最初に何をすればいい?」

道や川の草刈りも農家の仕事。川中の石伝いに対岸に渡れるよう、草木を刈り払う叔父。

長靴で水路や河川に入り、ひたすら草を刈る。イノシシが掘り崩した土手は、クワで土をすくい上げて修復します。
「草刈りは達成感があって楽しいんよー」と叔母。電動草刈り機でずんずん刈り払う叔母の後から、フェンス廻りなどをカマで手刈りするのが私の役割。いい汗をかいた充実の一日でした。
しかし翌朝、布団から起き上がることができません。最初は何が起きたか分からず、激痛に身をよじらせてやっと布団から這い出す。「……これはもしや筋肉痛?」。農家の暮らしは甘くない、と実感した朝でした。