<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること
第7回
4月:変化の季節

4月は変化の季節です。4月1日と4月30日では、まるで風景が違います。山の色が変わります。茶色一色から、淡い緑の世界へ。カラマツが芽吹きはじめ、コナラを始め森の木々が後を追います。その緑のなかに、ぽつりぽつり、コブシの花の白、ヤマザクラの薄いピンクの点描が森を彩ります。
- クイーンズメドウのヤマザクラの開花は4月下旬から5月初頭。この春は4月の終わりに満開に。
- これがそちこちで顔をのぞかせるようになるとやっと春が来たと無条件にうれしい。遠野ではバッケ。バッケ味噌、最高。
里の、雪が融けたばかりの田で大きな群れとなって日がな何かをついばんでは、旅立ちの準備をしていたハクチョウたちは、3月の終わりから4月、北へ向かって旅立ちました。それから10日ほどでしょうか。いつの間にか民家の軒をかすめるように、ツバメたちが南の空から戻ってきました。芽吹き前の明るいコナラ林の林床では、4月中旬ごろカタクリの花が春の陽射しを浴びています。スプリングエフェメラルの季節です。馬たちの冬毛から夏毛への換毛のピークも終わりを迎えています。越冬して生き延びたチョウがヒラヒラと飛んでいます。ウグイスが鳴き始めました。
- 夜明けが早くなってきた。朝一番の運動の時間。4月はまだ朝は氷点下の日が多いが裸馬の温もりが温かい。
- 牝馬たちのいる放牧地の林の芽吹きはあと少し。こちらを見つけて斜面を駆け下る。
そういえば、シカたちの姿を見なくなりました。きっと雪が溶けたので山の奥に移動していったのでしょう。もう、どきどきしながら人の気配のそばに来て馬たちの牧草を食べに来なくていい季節です。その代わり、クマたちは冬ごもりを終えてあたりを歩き始めています。出会うことはめったにありませんが、黒い大きな塊の糞が林道や森の小道に落ちていたりします。

雪が融けた4月は削蹄の季節。削蹄師のマサミツ君に来てもらう。専用の鋏、専用のナイフ、専用のやすりを駆使してきれいにトリムしていく。けっこう脚を上げる。
19世紀から20世紀にかけてのスペインの詩人で、ノーベル文学賞を受賞したフアン・ラモン・ヒメネスの若き日の代表作に『プラテーロとわたし』(理論社/岩波文庫)という作品があります。〈プラテーロ〉は、作中の〈わたし〉がいつもいっしょにいるロバの名前です。こんなふうに、自分の馬と過ごしたり、おしゃべりをしたり、それを文章にしたりできればなんて素敵なことだろう!と思うような短いお話がいっぱいです。ときどき、〈わたし〉は〈プラテーロ〉に呼びかけるのですが、それがとても柔らくて温かい感じなのです(訳文も訳文とは信じられないほど温もりがあります)。呼びかけは、たとえばこんなふうです。「きょうだけはね、プラテーロ…」「ごらん、プラテーロ…」「このあいだの雨で溢れているよ、プラテーロ…」「この土手に上るんだよ、プラテーロ…」「三人のお婆さんを見てごらん、プラテーロ…」「この木はね、プラテーロ…」。

どちらも茶色。馬の場合は栗毛といいます。人が両方を飼育するようになったので、捕食者-被捕食者の関係を超えた。