色彩のフィールドワーク:もてなす緑

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緑を感じる外装色
—メンズ・ウエアショップの店先にて

サクラの季節が終わり、あっという間に新緑の季節となりました。明るく柔らかな新緑はこの季節ならではの光と風を浴び、本当に気持ちが良いものです。
この時期の緑は四季の中で鮮やかさが高く、まちなみに華やかさをもたらしています。職場に向かう途中、目黒川沿いを歩いていると、ひと際色気を感じる建物が見えてきました。近づくにつれ、隣の建物との間にあるシマトネリコの枝が外観に彩りや動きを添えているかのようで、絵になる景色だなと感じました。さらに、明るい日差しが川沿いの木々を通し、ファサードに動きのある陰影をつくりだしています。

GRANVILLE STORE中目黒店

外観正面。枝を伸ばす樹木が、ファサードに彩りを添えています

GRANVILLE STORE中目黒店

川沿いの緑が、歩道や壁面に影を落としています

季候が快適である、ということはお店の構え方にも変化をもたらします。気持ちの良い風や陽射しを取り入れるため、出入り口をオープンにしているお店を多く見かけました。この季節ならではの開放的な雰囲気が、まちなみに躍動感や活気を与える重要な要素となっている、と感じます。気温が徐々に高くなり、夏に向け新しいシャツを買おうかな、という気持ちに誘われた若い人たちが(……恐らく)、次々とお店に入っていく様子が、何とも楽しく感じられました。
外装色は明度が低めのイエロー系で、扉にはさらに一段渋い、いわゆるカーキ色が用いられています。新緑の緑は黄緑系ですから、外装色とは色相(色味)が隣同士の関係、ということになります。外装色と緑が持つ色味はかなり近しい関係にあり、例えるなら「それぞれの色同士が呼び合っている=互いに近づくことで馴染んで見える」状態にある、といえるでしょう。

グランヴィルストア中目黒

外装色とコーディネートされたディスプレイ

中目黒グランヴィルストア

光と影のコントラストが印象的な外観をつくりだしていました

ところで観察しているうちに気が付いたのですが、店舗向かって右側にあるこのシマトネリコはどうやら隣の敷地のもののようです。外観の色調とのコーディネートがすっかり(ちゃっかり?)整えられていて、こうした取り込み方もあるのだなあ、としみじみ感心していまいました。物理的に植物がふんだんに植えられていなくても、充分に緑を「感じる」ことができ、その緑の印象がまちなみのつながりやまとまりにも貢献しているのではないか、と感じます。
お店の方、あるいは外観をデザインされた方がどこまでこの現象を意識していたか、はさておき。ちゃっかり万歳! と思ってしまいました。

測色の様子。明るすぎない、落ち着きのある黄色系です

ウエルカム感   ★★★★
ボリューム感   ★★★★
全体のカラフル感 ★★★★★

※ごく個人的な判定ですが、この3つの指標に記録をして行きます。必ずしも★が多いことが良いという訳ではなく、シンプルでもカラフル度が高くて楽しいなど、演出のポイントや効果の発見に繋がると面白いなと考えています。

著者について

加藤幸枝

加藤幸枝かとう・ゆきえ
色彩計画家
1968年生まれ。カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒後、クリマ入社。トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装を始め、ランドスケープ・土木・照明デザインをつなぐ環境色彩デザインを専門としている。自著「色彩の手帳-50のヒント」ニューショップ浜松にて販売中。

連載について

色彩計画家の加藤幸枝さんが綴る、「まちの緑」に着目したフィールドノートです。加藤さんは、店先の緑は看板より人の心を動かすうえで効果的であると言います。店先にプランターを置いたり、外装を植物で覆ったりするなど、店と歩道や道路との間で、緑を生かした空間づくりが少しずつ目立つようになっているそうです。それは、街ゆく人と店とのコミュニケーションの架け橋になっているとも言えるかもしれません。加藤さんがふだんの生活の中から見つける緑のあり方から、まちへ開く住まいづくりのヒントが見つかるでしょう。