<遠野便り>
馬たちとの暮らしから教わること
第8回
5月:新緑の高原へ
5月はため息がでるほど美しい季節です。遠野の野山は日々の色彩の変化が見事、森の木々が芽吹きはじめ、新緑は日々、濃さを増していきます。花木は当初、ヤマザクラのピンクとハクモクレンの白が際立っていましたが、やがてヤマブキの黄色が林の際を飾り、それもつかの間、ヤマフジとキリの紫色がそちこちで目につくようになります。
ツツドリの柔らかい声が森に響き渡ります。それから少しするとカッコウ、そしてホトトギスがやってきます。これらの鳥は、大きさは違うけれど素人目にはとてもよく似ている托卵する鳥で、律儀にも初鳴きの順番が毎年変わることはありません。南の国からアカショウビンも渡ってきてキョロロロローと印象的な声を響かせています。ため池ではモリアオガエルが鳴き始めました。エゾハルゼミの少し寂しげな音色が薄暗い森に響いています。
旧暦4月8日は新暦だと毎年ずれますが5月の前半から後半のどこかにあたっていて、クイーンズメドウと隣接する荒川駒形神社の例大祭です。いつもは人の訪れることの稀な、野生動物たちの気配ばかりが濃厚な閑静な神社も、この日ばかりは、氏子さんが集い、神楽やしし踊りの笛や太鼓の音色でにぎやかです。昔は近郷近在に限らずかなりの遠方からも愛馬を伴って泊りがけで大勢の人馬が訪れたといいます。その賑わいが去って長い年月がありましたが、20年近く前から、ふたたび馬とともに参列するようになりました。タカラクイーンから始まって、ジンガ郎、そしていまのハフリンガーたち。遠野の馬の飼育者たちとその愛馬も来るようになりました。今年はハフリンガーの子馬が生まれたのでしばらくぶりのニューフェイスの登場です。
例大祭が終わるとクイーンズメドウの棚田もいよいよ田植えが始まります。そして田植えが終わるといよいよ牝馬たちは荒川高原の牧場へ行くころです。