世界のキッチン おじゃまします!
配給制度が残る国・キューバで見た6つのキッチン
キッチンは個人の料理の好き・嫌いに関わらず、必ずと言っていいほど家の中にある。どんなに小さい居住空間でもキッチンは欠かすことのできない存在だ。このキッチンに付随する炊事機能は世界共通だが、国が変われば料理が変わり、それに従って設えや暮らしのなかでの立ち位置も異なるのではないだろうか。その国の暮らしをキッチンから覗いてみようと思い、最初は社会主義国・キューバで取材することにした。現地で思わぬ縁がつながり取材した「6つのキッチン」から見えてきたのは、キューバの人びとの、小さい空間を上手に工夫して使う柔軟さと物がなくても自分たちで発明してしまう賢明さ、そして料理がキューバの人にとって非常に日常的な行為ということだった。
Vol.7 6つのキッチンから考えるキューバらしさ
キューバは私にとって初めて訪れる国であり、スペイン語もしゃべれないにも関わらず、8日間のあいだに6つのキッチンを取材することができた。それはひとえに、事前に連絡を取っていたキューバ在住の女性や、キーマンになったユキさんが次々と数珠つなぎのように紹介してくれたからであり、距離の近いキューバの人たちが快く取材を受け入れてくれたからだ。自分の力をそれほど使うことなく、川の流れに乗るようにすいすいと取材が進んでいった。
今回は6つのキッチンを通じて見えた「キューバらしさ」について書いてみたい。
キューバで見たキッチンは次の3つが特徴的だった。
①合理的であること
②毎日料理をすること
③DIYが当たり前
①合理的であること
キッチン機能の配置から料理の盛り付けまで「合理的」の目白押しだった。例えば、シンクの上に設置された棚の下部が切り抜かれていて、洗ってしまうだけで水切りまでできてしまう食器棚。食器を拭く手間と収納する手間が省け、スペースの有効活用にもなる一石三鳥の仕様だ。日本の1Kのキッチンでもぜひ採用してほしい。
それからキューバで食べた家庭料理のほとんどがワンプレートに盛られていた。私の考察になるが、夫婦共働きが多いキューバでは家事の効率良くするために皿を洗う手間が少ないワンプレート形式が採用されているのだと思う。加えて、地域によりけりだがキューバは夜間に水道が止まってその間は水道タンクに貯めた水を使うこともある。どの家庭も水を大切に使っていて、洗い物に使う水を少なくするためにワンプレートにしている可能性もあると感じた。
②毎日料理をすること
キューバ人の生活に外食はあまり馴染みがない。取材した6組も毎食家で料理をしていることがほとんどだった。毎日使っているキッチンは、使い手の工夫にあふれていて見ているだけで楽しかった。
そしてこれまでの記事を見ていただくとおわかりいただけると思うが、どこの家庭でも毎日同じようなものが食べられているのも興味深い。豆のスープとご飯、または豆とご飯を一緒に炊いた「コングリ」を主食に、お肉料理とサラダが一皿に盛られているのだ。キューバ人の陽気さと心安らかなところは、毎日同じものを食べている安定感から来ているのかもしれないとも思えた。
③DIYが当たり前
キューバは外国諸国に比べて生活必需品の流通がすくない上に種類も豊富ではない。そういう環境で生活をしていると、自然と物を大切に扱いリサイクルする精神が育まれる。そして「ないなら作ろう」とDIY精神も生まれるのだ。電話線を改造した着火道具(写真左)やキッチン台(写真右)まで自分たちで作ってしまうのは本当に感心する。
けれど彼らのDIYはないなら作ろうというよりも、「自分たちにフィットする空間を作る」という観点から作られている気がした。自分の身体や行動に合ったDIYとも言えるだろう。お飾りのDIYではなく、毎日その場を使っているからこそ生まれるDIYが私には新鮮に映った。
帰りの飛行機で6つのキッチンと人々を一つずつ思い返した。彼らのキッチンはそれぞれに個性があって、空間と人が調和していた。そして何より初めて会う私を快く招き入れ、話をし、料理を食べさせてくれた人のあたたかさが心に残った。
キューバのキッチンの旅はこれにて終了です。次回はアメリカに住む多様な人々のキッチンをご紹介します。どうぞお楽しみに。