世界のキッチン おじゃまします! 
配給制度が残る国・キューバで見た6つのキッチン

キッチンは個人の料理の好き・嫌いに関わらず、必ずと言っていいほど家の中にある。どんなに小さい居住空間でもキッチンは欠かすことのできない存在だ。このキッチンに付随する炊事機能は世界共通だが、国が変われば料理が変わり、それに従って設えや暮らしのなかでの立ち位置も異なるのではないだろうか。その国の暮らしをキッチンから覗いてみようと思い、最初は社会主義国・キューバで取材することにした。現地で思わぬ縁がつながり取材した「6つのキッチン」から見えてきたのは、キューバの人びとの、小さい空間を上手に工夫して使う柔軟さと物がなくても自分たちで発明してしまう賢明さ、そして料理がキューバの人にとって非常に日常的な行為ということだった。

文・写真=山口祐加

Vol.2  キューバ在住の日本人・ユキさんの
秘密基地のようなキッチン

お隣さんと一緒につくった住まい

キューバで2件目に取材したのは、ハバナの中心街に住む日本人のユキさん。元々日本でコピーライターとして働いていた彼女は、旅行でキューバを訪れ陽気な人々に魅了されて通い続けることに。そのうちに住んでみたい気持ちが大きくなり、8年前にキューバに引っ越されて現在は取材コーディネーターや通訳のお仕事をされている。
ユキさんの住むアパートは、メイン通りに面したお菓子工場の上にある。工場を横目に見ながら階段を上がり、お部屋に入ると高い天井が気持ちいい。お家は広々としたリビング、寝室とキッチンの1LKの構成だ。

キューバに住む日本人の女性ユキさんの部屋

リビングから見たキッチン

キューバに住む日本人ユキさん

笑顔が印象的なユキさん

ソファに座ると、早々に「何か飲みますか?」とユキさんがビールを開けていて、キューバらしくていいなと思った。さっそく、お家についてお話を伺った。

「この建物は1940年代に建てられたもので、私の持ち家です。引っ越して来た当時は建物が古いのもあり経年劣化で各所にボロが出ていて、手を入れないとどうしようもない状況でした。でも運がいいことに、隣に住んでいる夫婦の旦那さんが建築関係のお仕事をされていて、部屋の手直しを全面的に手伝ってくれました。
キッチンの壁を塗り直したのですが、所々汚れが見えてしまうところは写真を貼って(写真左)隠してごまかしています。(笑)この大きな白い筒(写真右)は湯沸かし器です。下の窓を開けるとガスコンロの口があるので、そこに火をつけるとお湯が沸きます。相当古いとは思いますが、まだまだ使えそうです。」

ユキさんは手を動かしてものを作るのが好きで、キッチンにある大きな時計は自作したそう。唐辛子のモチーフがなんともかわいい。

秘密基地のようなキッチン

ユキさんのキッチンは小さな部屋になっていて、一人用のキッチンという感じだ。1、2歩進むだけで色々と手に届くこぢんまりしたサイズで、居心地がいい。
ここにある包丁以外の調理道具や食器は全てキューバで揃えたそうだ。このキッチンでどんな料理を作っているのだろう。

「一人で食べるときはパスタや、牛肉のステーキが多いですね。彼と一緒に作るときは、鶏肉をスープにしたり、新鮮な豚フィレ肉が入るとカツレツにしたりもしますね。朝は忙しい時にも卵とカフェオレを食べるようにしているのですが、それは同じアパートに住むおばあちゃんがその二つを食べるようにと教えてくれたのです。『卵は栄養価が高いし、コーヒーだけでなく牛乳も入れると栄養が摂れるから』と。(話に出てきたおばあちゃんのキッチンものちにご紹介します。お楽しみに)

キューバに住んでいると、『和食が恋しくならない?』と聞かれることがありますが、日本出身なのにあまり日本食が好みではなくて。日本にいる時から他国の料理を作っていたので、こちらの食生活にあまり不安はありません。」

昔から料理本のレシピを読むのが好きで、気づくと100冊も買ってしまうほど夢中だったというユキさん。ただ、料理は好きだけれど、同じ味を再現したり大人数の料理を作ったりするのが苦手だそう。料理は一人か、身近な人と一緒にするのが好きだという。私も自分のことを振り返って、確かに一人や家族のために料理をするときのほうが心地よく、自分らしいものが作れているなと感じた。

最後にキューバと日本の生活の違いを聞いてみた。

「キューバは環境に悪いゴミが少ないですね。スーパーでビニール袋をもらえるところも少ないし、テイクアウトは紙を使うことが多いです。観光業が盛んになってきたとはいえ、まだまだキューバは貧しい国です。キューバ人は釘一本さえ捨てずに売るような、なんでも商売にするたくましい人たちです。」

次回は、ユキさんのお話にも出てきたお隣のご夫婦のキッチンを紹介したい。旦那さんがなんでもDIYして作ってしまうキッチン、どうぞお楽しみに。