現代に「野の家」を。
ベーシックな暮らしを叶える家のかたち
Vol.1 “唯一”の平屋に凝縮された住宅設計
趙さんにとって「ベーシックな暮らしを叶える家」としての設計手法は、唯一の平屋に凝縮されていました。
特集のテーマに「ベーシックな平屋」と言われて困りました。あろうことか、私には平屋の住宅の設計事例がほとんどないのです。これまでにやった唯一の平屋が「薩摩町家」に増築した「離れ」でした。しかし考えてみれば、平屋で私がやってみたいことは全部そこに出ているようにも思いますので、ここではそれを紹介します。
この建物は「離れ」ですが、独立した住宅としても使えます。キッチンのついた土間と寝室代わりの板の間、それに和室と露天風呂が、中庭を囲んでコの字に並ぶという構成(立体図参照)。ここでは「部屋ではなく場所が集まって家になる」ということを考えていました。
土間と板の間があればそれで十分に家になる、というのは昔の農家や町家が教えるところですが、でももちろんそれだけじゃありませんでした。そこには必ず縁側や軒下空間、家の内と外をつなぐ場所がくっついていました。その点が、アルミサッシとエアコンで代用しているいまの家との違いだろうと思います。
平屋だと、床と軒を大きく張り出して外に開くかたちが無理なく自然にできます。この離れでも中庭に沿って大きな軒下空間を巡らせました。土間の床は軒下まで延びて、外にもう一つの居場所をつくっています。

「離れ」の立体図。水路の反対側に建つ母屋のデッキから見る。右手のL型部分が土間と板の間、左手が和室。2つが軒下空間でつながり、中庭を囲んでコの字型に連続している。

立体図と同位置から視点を下げて見た「離れ」の夜景。

「離れ」の土間から北の中庭と母屋を見る。

土間と板の間のつなぎ目にある居間のアルコーブ。

中庭の片隅には露天風呂がある。

「離れ」の外観。南側なのにあえて壁を多くして光を絞っている。
※薩摩町家は、「現代町家」の設計システムを活かした住宅。「現代町家」について詳しくは、『現代町家という方法——家づくりで町かどの風景を変える』(建築資料研究社, 2018年7月9日発売)にて解説されています。