現代に「野の家」を。
ベーシックな暮らしを叶える家のかたち
2019年5月1日に元号が変わるといいます。新しい元号の日本はどんな国になっているでしょうか。まさに時代の転換期に生きる私たちは、どのような住まいを手にすることができるでしょうか。
これからの時代基本となる家の形は、平屋あるいは平屋に似た素朴なものなのかもしれません。地面にしっかりと張り付いて、風景の起伏になじむ大きさ。農地に影を落とさない小さくも大きく暮らせる家。それは、都市と地方という二極化した暮らしのあり様ではなく、新しく農との関わりを生む家を私たちは求めるようになると考えるからです。
そんな、私たちのベーシックな暮らしを叶えてくれる住宅を、びおでは「野の家」と名付けました。ここに、3人の建築家による「ベーシックな暮らしを叶える家のかたち」を紹介します。
Vol.1 “唯一”の平屋に凝縮された住宅設計
趙さんにとって「ベーシックな暮らしを叶える家」としての設計手法は、唯一の平屋に凝縮されていました。
特集のテーマに「ベーシックな平屋」と言われて困りました。あろうことか、私には平屋の住宅の設計事例がほとんどないのです。これまでにやった唯一の平屋が「薩摩町家」に増築した「離れ」でした。しかし考えてみれば、平屋で私がやってみたいことは全部そこに出ているようにも思いますので、ここではそれを紹介します。
この建物は「離れ」ですが、独立した住宅としても使えます。キッチンのついた土間と寝室代わりの板の間、それに和室と露天風呂が、中庭を囲んでコの字に並ぶという構成(立体図参照)。ここでは「部屋ではなく場所が集まって家になる」ということを考えていました。
土間と板の間があればそれで十分に家になる、というのは昔の農家や町家が教えるところですが、でももちろんそれだけじゃありませんでした。そこには必ず縁側や軒下空間、家の内と外をつなぐ場所がくっついていました。その点が、アルミサッシとエアコンで代用しているいまの家との違いだろうと思います。
平屋だと、床と軒を大きく張り出して外に開くかたちが無理なく自然にできます。この離れでも中庭に沿って大きな軒下空間を巡らせました。土間の床は軒下まで延びて、外にもう一つの居場所をつくっています。
※薩摩町家は、「現代町家」の設計システムを活かした住宅。「現代町家」について詳しくは、『現代町家という方法——家づくりで町かどの風景を変える』(建築資料研究社, 2018年7月9日発売)にて解説されています。