びおの珠玉記事
第20回
里山の色 木蔦(きづた)
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2016年10月08日の過去記事より再掲載)
木蔦(きづた)
暦便覧によると、寒露は「陰寒の気に合つて露結び凝らんとすれば也」。露が冷気で凍りそう、ということですからずいぶん寒いイメージです。
つい先日、稚内で初雪を観測したというニュースがありました。北海道の平野では今季初の降雪です。一方で、まだ夏の名残りも色濃く見られ、日本列島の広さ・季節の多様さを改めて感じます。
それでも、季節は少しずつ冬に向かっていて、朝晩の冷え込みや、空の澄み具合などは、各地で実感出来ることでしょう。
「蔦(ツタ)」はブドウ科の植物で、夏に葉を茂らせます。七十二候に「楓蔦黄・もみじつたきばむ」という候があるように、こちらは葉の色を変え、やがて落葉します。このためナツヅタなどとも呼ばれます。
これに対して、木蔦(キヅタ)はウコギ科の植物で、冬も緑に茂ります。蔦に似ていますが、ウコギ科の植物です。ウコギ科には他にウド、タラノキなどの山菜類や、ヤツデ、カクレミノなどの低木があります。キヅタもこうした樹木の仲間だけあってか、蔓というよりは木のような茎で他の木に這い、伸びていきます。木に這うから木蔦なのか、木のようだから木蔦なのか、いずれにしても、実のところ、ツタとは別の仲間で、常緑のためフユヅタとも呼ばれます。
植物の生存戦略については前回・ヤブランでも触れました。自分にとって都合のいい場所を選ぶということ。それが、キヅタにとっては、他の木に這って登るということです。キヅタは、つる性とはいっても、他に巻き付くのではなく、茎から気根とよばれる付着根を出して、植物や岩肌などに密着します。
同じウコギ科の仲間でも、樹木になるものとは戦略を変え、すでにある樹木に這って上を目指す、というスタイルを選んだわけです。キヅタは常緑樹ですから、他の木が葉を落とす中、それに這い上がることで、よりよい日照を確保しよう、というわけで、いやはやなんとも、逞しいものです。這う植物等がなければ、それを求めて地面を這い、結果としてグランドカバーにもなったりします。
キヅタの葉は、楕円形のものもあれば、手のひらのような烈状になるものもあります。
知らないと、同じ植物の葉とは思えないかもしれません。
キヅタは、壁面緑化にも使われる植物です。支柱などに巻き付くタイプではなく、気根で自ら張り付いて伸びていきます。
甲子園球場はツタによる壁面緑化の代表的な建物の一つです。ナツヅタとフユヅタの両方が使われています。もともとは日射遮蔽などを目的としたものではなく装飾用だったようです。キリスト教会によく見られるツタはキヅタ(セイヨウキヅタ含む)で、常緑を永遠のシンボルと捉える考えによるものです。
近年では、壁面緑化は夏対策、地球温暖化防止などの掛け声によるところが大きく、もちろんその効果もさることながら、意匠や精神性もまた、緑と暮らす上ではとても大きな要素です。