ぐるり雑考
第22回
いつものうたを、ちがうまちで
好きなバンドのライブを聴きに、泊まりがけで、ある地方都市のコーヒーショップを訪れた。椅子を並べた店内は満席。お客さんが大勢集っているけど、自分の知っているひとは一人もいない。
でも同じ音楽を好む方々だけあって、その場のどの人にも既視感がある、とまで言うと変だけど、服装や表情、まとっている空気に親しみが感じられる。あの人もあの人も、なんだか知っている気がする。
彼はレコード屋で働きながら音楽をつづけている彼、彼女は会社では人事部にいる音楽好きの彼女。と、知ってそうなのだけどむろん気のせいで、実際にはいま初めて目にしている人ばかり、という不思議。
修学旅行で京都の東山をクラスで歩いていると、向こうから、どこかのまちの別の中学校の連中が同じくクラス単位でゾロゾロやって来る。
あのときの気恥ずかしさの正体はよくわからないんだが、向こうには向こうの担任らしき人がいて、ゾロゾロの中には、こっちで言うと田中、こっちで言うと森川、こっちで言うと渡嘉敷のような彼や彼や彼の姿が見える(どちらも男子校なんですね)。
すれ違うとき、興味津々。その中の一人と目が合って「あ、俺だ」と思ったり。
僕は東京生まれで、東京のライブハウスに通って好きな音楽を聴いて育った。そんな自分が大人になって地方都市のライブを訪れてみると、そこはパラレルワールドのよう。あっちの世界の誰かと似ているこっちの世界の人たちが、同じ音楽を、こんなふうに楽しんでいる。
まちのサイズが違うので知り合い率も高いのか、あちこちで互いに声を掛け合っている。日常的な生活圏が近く、同じ空気を吸って、同じ水を飲み、同じイントネーションの言葉で語り合う。
そんな彼らのただ中にいる自分はある意味異物。だけど居心地はいいという、この不思議。
わざわざよそのまちのライブに行くのが好きだ。この味わいは独特だなと思う。この日のバンドは「GUIRO」でした。