ぐるり雑考

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本当に必要な仕事

ぐるり雑考

ネパリバザーロの土屋春代さんが前に聞かせてくれた「工程や手間を出来るかぎり増やす」という考え方には、目から鱗が落ちた。

一般的な商品開発では、そこを合理化してコストを抑える。でも彼女が手掛けてきたのはフェアトレードの商材で、目指すのは「ネパールの女性の自立」だ。少しでも安くつくって市場競争力を高めようという発想がない。

その土地で手に入る素材で、停電でも作業出来て、やればやるほど本人の身に技術がついて収入にもなる。そんな機会づくりを考えているので、彼女のまわりで生まれる仕事はおのずと、有機的な自然素材による、電気を必要としない、手仕事のかたまりになる。

ぐるり雑考 ネパリ ベスト

一枚の衣服に織り・染め・縫い・編み・ボタンづくり・刺繍など、複数名の仕事が重なっている。ついエルメスの鞄づくりを連想してしまうのだけど、いずれにせよ、これらの現場では「仕事を増やす」ことに十分な意味があり、顧客にも肯定されている。

一方、先日ヨーロッパを訪ねた際に考えてしまったのは、「仕事を増やす」ことの意味の無さだった。日本の話です。
欧州を列車で移動した人なら、駅に改札がないことや、発着のベルが鳴らないことを知っていると思う。高速道路にも料金所はないし、一般車道のガードレール設置も最低限。下はオーストリアのある駅前のロータリー。ご覧のとおり実にさっぱりしたもので、その下の写真は空港のトイレだったかな。

ぐるり雑考 オーストリア 駅前 ロータリー

ぐるり雑考 空港 トイレ オーストリア

「日本には本当に無駄なものが多いんだな」と、あらためて思ったんですよ。男性用便器の大きさまで考えさせられる。そもそも、高速の料金所っていずれ無くなる予定でなかったっけ? ETCになって一見便利だけど、その維持管理費があらたにかかっているし、道路関連の予算なら税金でまとめて集める方がリーズナブルなはず。

道路に限らず、流通の仕組みも、捺印文化も、あれもこれも。人口を増やして内需を拡大し、そのぶん仕事もたくさんつくって…という時代は終わったはずなのに、仕事の無駄は整理されないままもっともらしい矜持を残して、運用コストは隅々まで高い。そんな中、人口だけが減ってゆくわけだ。働き手が足りないといった話の前に、まず社会の運用負荷を下げる工夫が必要なんじゃないか。

ネパリバザーロの話に戻ると、働くことを通じて人が育ってゆく、そんな仕事や機会の多い社会には、僕は賛成。課金システムを高度化させて、社会をよりお金のかかるそれにしてゆく仕事の増加には、まるで不賛成。
「仕事づくりが大切」と多くの人が言うけど、じゃあこれから要るのはどんな仕事なのか、ちゃんと考えないと。

ネパリバザーロ(NEPALI BAZARO)

著者について

西村佳哲

西村佳哲にしむら・よしあき
プランニング・ディレクター、働き方研究家
1964年東京都生まれ。リビングワールド代表。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事をしている。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物、公共空間のメディアづくりなど、各種デザインプロジェクトの企画・制作ディレクションを重ねる。現在は、徳島県神山町で地域創生事業に関わる。京都工芸繊維大学 非常勤講師。

連載について

西村さんは、デザインの仕事をしながら、著書『自分の仕事をつくる』(晶文社)をはじめ多分野の方へのインタビューを通して、私たちが新しい世界と出会うチャンスを届けてくれています。それらから気づきをもらい、影響された方も多いと思います。西村さんは毎日どんな風景を見て、どんなことを考えているのだろう。そんな素朴な疑問を投げてみたところ、フォトエッセイの連載が始まりました。