びおの珠玉記事
第35回
蓮と蓮根
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2012年12月31日の過去記事より再掲載)
冬至の末候、雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)を迎えました。秋に蒔かれた麦が、雪の下で芽を出し、春に備えるという、新年を迎えるにふさわしい候です。今回のテーマは蓮根。蓮根は雪の下ならず、泥の下で育つスイレン科の植物です。この時期に多く出回り、おせち料理に欠かせない食材です。
神秘の植物・蓮
蓮根はインド原産説、エジプト原産説、中国原産説などさまざまですが、日本にも古くからあったことが、「大賀蓮」として知られています。遺跡から出土した2000年以上前の蓮の種の発芽を試みたところ、発芽・開花したというものです。鑑定、発芽を行った植物学者の大賀一郎博士の名から、大賀蓮と呼ばれ、各地に根分けされています。
仏像の多くは蓮台とよばれる、蓮の花で出来た台に座っています。泥沼を世の迷いに、美しい花や、水を弾き水面に浮かぶ葉などを悟りとして対比し、迷いの中から悟りを開くことを蓮の花に投影しています。
英語では蓮はLotus、蓮根はLotus root。
ギリシャ神話では、食べると浮世の苦しみを忘れられる、夢見心地になるという想像上の果実がLotusと呼ばれていました。そこから転じて、安逸1をむさぼる人、という意味でLotus eaterという熟語が生まれています。
ヒンドゥー教でも、ヴィシュヌのへそから蓮が生え、そこからブラフマンが生まれたとされています。
洋の東西でずいぶん違う扱いのようにも見えますが、人の迷いや精神に関わるものとして考えられてきたようです。
写真は東京板橋・乗蓮寺の東京大仏。寺の名前も「蓮に乗る」と書きます。板橋には、「蓮根」という地名もあります。上蓮沼村と根葉村が合併してできた地名ですが、なんとも出来過ぎというか…。蓮沼という地名は東急池上線沿線にもありますし、千葉県にもあります。地名はその土地の記憶を表すといいますが、蓮沼という地名は、まさにそこが沼であったことを指すのでしょう。
蓮根の栄養
最近の蓮根はどうも糸を引かない…と思ったことはありませんか?
この糸の成分が、最近多く流通している中国種には少なく、かつて食べられていた在来種にはより多いようです。このため、昔の蓮根は糸を引いたけど、最近のものはあまり糸をひきません。細く柔らかい在来種はほとんど一般市場には出まわっていません。
在来種より少ないとはいえ、出まわっているものも、糖質は多く、野菜としてはエネルギーが高いものですが、ビタミンCは100gあたり48mgと、みかんより多く、他にもビタミンB1やカリウムも多く、また不溶性の食物繊維も多い食材です。
厚みや火の通し方で食感が変わります。さっと火を通すだけならシャキシャキと、厚めに切ってじっくり火を通すと、糖質が糊化してもちもちした食感が楽しめます。
おせちの蓮根
蓮根は、その字こそ「根」があてられていますが、実際に蓮根として食べられる部分は地下茎です。そしてあの穴は、茎を通して地上の葉に通じます。蓮根は、水中・地中で育ちますが、この穴が酸素供給の役割を果たしているようです。
この穴を覗いてみると、向こう側まで貫通しています。このため「見通しがきく」ということで、おせち料理やお祝いごとに用いられます。日本の料理には語呂合わせが多いですね…。
(※2012年に書かれた内容です)
さて、住まいを取り巻く環境の「見通し」は。
来年(2013年)はいろいろなことが起こります。新築にあたっては、最大の問題とされる消費税8%へのアップが待ち構えています。税率アップ自体は、2013年ではなく、2014年4月1日からの予定ですが、引渡しのタイミングによっては、税率8%が適用されます。ただし、注文住宅の場合は、新税率施行の半年前までに請負契約を締結していれば、5%の消費税が適用される措置がとられることになっています。つまり、2013年9月30日までに契約をすれば、引渡しが2014年4月1日を過ぎても消費税率は5%のまま、ということです。
消費増税以外にも、新たな省エネ基準の実施や、木材利用エコポイントといった新しい制度もはじまります。
新政権が発足し、まだ数日の間に、原発の再稼働や新設の話題が続出しています。総括原価方式にある家庭用電気料金は、各電力会社が次々に値上げの検討・申請を行うなど、エネルギーの問題は新築・既築に限らず誰にでも関連することでありながら、なかなか先が見通せません。
今後の「びお」は、住まいとエネルギーの視点を増やして、先の世界を見ていきたいと考えています。
本年も、よろしくお願いいたします。
1:何もせずにぶらぶら暮らすこと。