色、いろいろの七十二候
第14回
蓮始開・風鈴
空色 #A0D8EF
淡群青 #769DCD
現代の室内は、エアコンのスイッチひとつで「快適」とされる環境が手に入ります。エアコンの効率はずいぶん向上しています。ヒートポンプによって、消費電力の何倍もの冷暖房能力を実現していて、冷暖房はエアコンに限る、という人もいます。
最近の機種は、日差しを感知したり、足先の温度を感知したりと、単に室内の空気の温度を上げ下げするだけでなく、人の体感という点に着目しています。
快適性評価は、気温の他に、湿度、気流、放射熱、着衣量、代謝量といった要素で評価されます。けれど、これらにはないけれど涼しく感じさせる要素がありますね。
そう、「音」です。
風鈴という言葉を聞いただけでも、涼しい感じがイメージされます。これはどうしてでしょうか。
風鈴は、その名の通り、風によって鳴る鈴です。風が吹けば鈴が鳴る、ということは、鈴が鳴れば風が吹いている、ということです。
風鈴の音を聞いた時、人はその様子を思い出し、風が吹いているかのような「思い込み」をします。この思い込みが、涼しく感じさせる、というわけですが、体感温度だけでなく、なんと体表面温度まで下がってしまう人もいるのだそうです。
「パブロフの犬」という、よく知られた条件反射の実験があります。ある音を鳴らしてから犬に餌を与えることを繰り返すうちに、その音を聞いただけで犬が唾液を出すようになったことから、生物が後天的に反射を獲得することを発見したものです。
「風鈴が鳴っているから涼しいな」と考えるのは条件反射ではなく、学習です。条件反射とは、風鈴の音を聞いたことで、無意識のうちに体感が涼しくなる反応です。
風鈴というものがどういうものかを知っていなければ、そもそも「思い込み」も起こらないため、風鈴を知らない外国人にはこの現象は見られないようです。日本人でも、エアコンで閉めきった家しか知らない子どもたちには、風鈴の思い込みは効かないかもしれません。もしかして、エアコンの動作音を聞くと涼しく感じる、なんていう人も増えていたりして…。
夏を快適に過ごすためにできることはたくさんあります。庇やブラインド、すだれ、よしずなどで窓からの入射を防ぐこと。特に屋根をしっかり断熱しておくこと。その上で、通風計画をきちんとしておくこと。調湿性能をもった建築材料を選ぶこと。
風鈴は、これらの室内環境をつくるものと比べると、まったく違ったアプローチからの「涼」ではありますが、「自然室温で暮らせる家」の、ひとつの仲間として歓迎します。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2014年07月07日の過去記事より再掲載)