色、いろいろの七十二候
第35回
霎時施・ニンジン
鶸色 #D7CF3A
濃紫 #3E214C
ニンジンは、もともと中央アジアの原産で、西廻りにヨーロッパを経由して渡来した西洋ニンジンと、中国経由の東洋ニンジンがあります。
通年市場に出回っていて、よく見かけるのは西洋ニンジンです。
おせち料理につかう金時ニンジンは東洋ニンジンで、西洋は太めで短いもの、東洋は細長いのが特徴です。
おせちの時期になると見かけるようになる東洋ニンジンに対して、西洋ニンジンは一年中いつでも売られています。
いつでも手に入るニンジンですが、秋から冬にかけてがおいしくなるといわれています。
どうしてこの時期においしさが増すのでしょうか。
野菜は、その多くが水分で構成されています。ニンジンは水分が少なそうに思えるかもしれませんが、それでも89.5%が水分です。水分は冬場に気温が下がると、凍結のおそれがあります。
凍結を防ぐために、糖分を増やして、結果甘味が増すようです。ニンジンに限らず、ハクサイやダイコン、ホウレンソウといった野菜も、寒い時期には甘味が増すことが知られています。
そういう点では、冬ニンジンのほうが甘味がある、ということになりそうですが、秋ニンジンは主に北海道産のものが出まわり、冬ニンジンは本州産が出回る、というように、産地によって旬が違います。秋から冬がニンジンの旬、といっていいでしょう。
果物や木の実は、美味しくなることで、鳥や獣、人間に食べられて種子をあちこちに運んでもらう、という繁殖戦略を持っています。
これがニンジンのような根菜となると、どうでしょうか。
ニンジンはセリ科の植物で、収穫しないでおくと(いわゆる薹が立つ、という状態ですが)、かわいい白い花が咲きます。この花に虫を集めて繁殖する虫媒花です。
花がつくまえに、根を食べられてしまう、というのではたまったものではありません。けれど、ニンジンは絶滅することなく、世界中に分布を広げています。人間という媒介者を通して。
人は植物を支配しているようでいて、実は世界に植物が広がる手伝いをしてきたことになります。
人が農耕をはじめることも、植物の生存戦略に入っていたとしたら驚きです。
園芸作物とはいえ、旬の野菜がおいしい、というのは自然の恵みに他ならず、旬を通じて、私たち人間自身も、やっぱり自然の一部であると実感します。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2014年10月23日の過去記事より再掲載)