びおの珠玉記事
第68回
下を向いて歩こう!
ドングリ拾いのススメ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2009年10月18日の過去記事より再掲載)
かつて人の手で作られた雑木林
ドングリとは、コナラやクヌギなどの、ブナ科の植物の総称です。これらの木々は、かつて薪としての需要から、人里近くに植樹され、里山を形成してきました。シイタケなどの原木に用いられたり、ドングリを食用にするなど、人間の生活に関わりのあるものでした。
しかし現在では、宅地化のために造成されたり、化石燃料によって薪が使われなくなることから里山が放置されるようになりました。
燃料、食料、そして風景を供給していた里山は、こうして失われていったのです。
ドングリ拾いに行こう
子どもの頃に、ドングリを拾った経験がある人は多いでしょう。独楽にしてあそんだり、笛を作ったり、とにかく数を競ったり…
大人になると、なんだかいつも足早になって、足下に落ちているドングリにも気がつかなくなっている、なんてことはありませんか?
かつての生活に密着していた里山はほとんどその姿を失いましたが、ドングリのなる木は、まだまだあちこちで見ることができます。
この季節、雑木林に入って足下を見れば、ほらこの通り。
ドングリは、乾燥してしまうと発芽しにくくなるので、日陰や落ち葉の下などで、乾いていないものをねらいます。
ドングリは、一本の木に大量の実がなりますが、それが発芽して大木まで育つのはほんのわずかです。多くは動物や鳥に食べられたり、乾燥して発芽できません。発芽出来るのは、落ち葉の下や、動物が隠した土の下などにあるものだけです。拾ってくるときは、全部を根こそぎにするのではなく、必要な分を少しだけ、にしましょう。
現代社会の中で、ドングリを見つける手っ取り早い方法は、近所の公園にいくことです。クヌギやコナラが植えられている公園も多く、簡単にドングリが見つけられます(カタいことをいえば、大抵の公園では植物の持ち帰りは禁止されていますから、ドングリ拾いもイケナイことなのかもしれませんが、落ちたものを少しいただくぐらいなら、ね)。
しかしながら、これらのドングリは、果たしてどこからやってきたものなのか、少し考えてみましょう。
「外来種」という言葉があります。人為的に持ち込まれた自然分布以外の種を指します。この言葉を聞くと、大抵は外国から入ってきた動植物をイメージしますが、これは「国外来」であり、それ以外に、国内での「地域外来」も存在します。
これに対して、自然分布している範囲のものを「在来種」と呼びます。
コナラやクヌギは、日本を含めたアジアの一部に分布する在来種です。
現代の造園工事では、図面に「コナラ、クヌギ」と書いておくと、どこかからその木が運ばれてきて植えられます。図面上のスペックは満たしていますが、どこの生まれかはわからない、ひょっとしたら外国から持ち込まれたものかもしれませんし、そうでなくても、地域外来種である可能性もあるのです。
同じ種類だから、別にいいじゃないか、と思う方もいるでしょう。
しかし、遺伝学的研究によって、在来種と同種と認められている種でも、日本のものと、海外のものでは実は別の種類といえるほどの違いがある、というケースもわかってきました。また、国内の在来種でも、地域によって葉の形に違いがあるなど、遺伝子レベルでの違いを持っていることもわかっています。
これが交雑することで、地域の遺伝子が失われてしまうこともあり得るのです。
ですから、ドングリ拾いは、できれば公園ではなく、昔からある里山や、その跡地など、最近になって植えられたのではないところを探すところから挑戦したいところです。
ドングリを育てる
さて、拾ったドングリを育ててみましょう。
採ってきたものを水にあけます。
浮かぶものと沈むものがあります。浮かんだものは虫食いだったり、乾燥してしまっているものなので、早めによけておきます(浸けたままだと、時間とともに沈んでいって区別しにくくなります)。今回はコナラの他に、シイの実やアラカシも一緒に拾ってきました。
自然のドングリは落ち葉の下などで乾かなかったものだけが発芽します。あまり深く穴を掘る必要はありません(でも日なたの場合は乾燥させないように)。ドングリ一個分程度の土をかぶせます。その後は乾燥させないように。
コナラの場合は根がすぐに出て、翌年の春になると芽が出てきます。
今回は直植えしましたが、ポットで育てて、大きくなったら定植する方が、簡単かもしれません。
落葉樹の庭を
コナラやクヌギは10〜20メートルほどに育つ落葉樹です。落葉樹は、夏は木陰を作り、冬には葉を落として日当たりが得られるため、家の南側に植えるのに適しています。
とはいえ、今から実生で育てると、家を隠すようになるまでには5年、10年という時間が必要です。これから家を建てようと考えている方は、ポットで苗木を育てておくのがよいかもしれませんね。
最終的にはかなり大きくなる木です。庭に植える際は、それを踏まえて臨みましょう。
追記:10年経って、どうなったか。
さて、このときの木がどんな風になったか。6年後の2015年と、10年後の2019年の写真をそれぞれ掲載しました。
6年後には、実もなっています。10年後には、家を隠すどころか家より大きくなってしまったので、強めに剪定しました。
夏は茂った葉が日差しを遮ってくれます。冬には落葉して太陽が家の中まで届きます。
ついた実は地面に落ちて、いくつかは芽を出して新たな木が育ちつつあります。
植物って、ホント、すごいですね。