びおの珠玉記事
第69回
里芋
日本の食文化と関わりの深い伝統野菜
(2009年10月08日の過去記事より再掲載)
新米、栗、キノコ、銀杏、ぶどう、柿、秋刀魚、鮭、鯖……等々、おいしいものが豊富な食欲の秋、真っ盛りです。
秋は、芋の季節でもあります。じゃがいも、さつまいも、里芋。そして少し時期が後になりますが、山芋。それぞれに種類も豊富で、いろんな芋が店頭を賑わしています。
今回はその中から、里芋に注目してみました。
茶色で縞模様があり、ひげがついている里芋。私たちが食べているのは、地下の茎の部分です。また、里芋の葉は、子どもが傘にしている絵が思い浮かぶくらいに大きく、特徴的な形をしています。茶色の皮を剥くと、ぬめりがあり、白くなめらかな身が現れます。やわらかく、ねっとりした食感で、やさしく品のいい味わい。
現在では、じゃがいもやさつまいもに比べると地味な存在として扱われがちな里芋ですが、昔は「イモ」と言えば里芋のことを指しました。古い歴史を持ち、日本の食文化と関わりの深い伝統野菜です。
今回は里芋の歴史や日本人との関わり、栄養と効能について見てみたいと思います。また、東北地方の秋の風物詩「芋煮会」で作られる「芋煮」にも挑戦してみました。
古い歴史を持つ里芋:
稲作以前の古代人の主食だった
里芋の原産地は、インド東部からインドシナ半島にかけてという説が有力です。少なくとも紀元前3000年ごろにはインドで栽培されていたようです。
そこから、原始マライ民族の移動とともに、フィリピン・ミクロネシア・ポリネシア・オーストラリア・ニュージーランドに至る太平洋一帯に広がりました。現在でも「タロ(タロイモ)」として利用されており、多くの民族・地域で重要な主食となっています。
1世紀ごろ、古代インドからアフリカ、ヨーロッパへも伝わっていきましたが、ヨーロッパではほとんど食用にされませんでした。
日本への渡来については、紀元前に中国から渡来したという説と、南方から太平洋諸民族の渡来により伝えられたという説があります。渡来時期ははっきりしませんが、稲の渡来(縄文晩期)より古いとされています。
日本で稲作が始まったのは弥生時代ですが、それ以前、縄文時代に焼き畑農業が行われており、その中心作物は里芋で、里芋は稲作以前の主食だったと考えられています。
日本に定着した里芋は、タロイモ類の中で最も北方の風土に適した系統のものでした。
里芋は、「ウモ」とか「イエツイモ」と呼ばれていました。
ウモはイモの古語です。イエツイモは、以前から山野に自生していたヤマノイモに対して、家で栽培するイモという意味でつけられました。
里芋の記録として最も古いものは『万葉集』にあります。
蓮葉(はちすば)は かくこそあれも おきまろが いえなるものは 宇毛之葉にあらし
長意吉麻呂(ながのおきまろ)
「蓮の葉は、このような葉の事をいうのだろう。我が家にあるものは、どうもサトイモの葉のようだ」と歌っています。(一説では、よその美しい奥様と自分の妻を比べている、とも言われているそうです。)
また、平安時代の『延喜式』には、里芋の栽培方法が記されています。
当時、主食としての穀類があまり豊かではなかった中で、里芋は重要な作物であったと考えられます。
じゃがいもやさつまいもが食べられるようになるのはずっと後、江戸時代のことです。
「里芋」という名前は、(古代の呼び名と同様ですが、)山芋に対して、里で作る芋というのが由来です。他に、「田芋」、「畑芋」、「家芋」などの呼称があります。
いろいろな種類の里芋
里芋は古くから栽培されており、いろいろな種類のものが日本へ入ってきたため、現在でも多くの品種があります。形や大きさ、食べる部分の違いなどから、大きく4つに分けることができます。
小さな子芋や孫芋がたくさんでき、これを食べる品種。主に日本などの温帯地方で育つ。
石川早生・土垂(どだれ)・えぐ芋・蓮葉(はすば)芋・烏播(うーはん)など。
・土垂:関東地方で多く栽培されている。コロンとした楕円形の里芋。
・石川早生:土垂と並ぶ、里芋の代表的な品種のひとつ。
中秋の名月に皮ごと蒸して食べる「きぬかつぎ」によく使われる。
大きくなった親芋を食べる。南太平洋などの亜熱帯・熱帯地方でよく育つ。
京芋(竹の子芋)など。
・京芋:九州で栽培されている。別名竹の子芋。
親芋・子芋の両方を食べる。
八つ頭(やつがしら)・唐芋(とうのいも)・セレベス(大吉)・赤芽芋など。
・八つ頭:親芋のまわりに7〜8個の子芋がついて一塊になるという独特の形。
末広がりの八と、これを食べると人の頭(上)に立てるという縁起をかついで、正月のおせち料理に使われる。ずいき(葉柄)も利用する。
・えび芋:特殊な栽培法によって、唐芋の形を海老のように湾曲させたもの。
京野菜。京料理の名物「芋棒」は、えび芋と棒タラを炊き合わせたもの。
葉柄を食べる。ずいきは「いもがら」とも呼ばれる。
蓮芋(はすいも)など。
・蓮芋:ずいき専用品種。芋はかたくて食用にならない。
里芋の栄養・効能
里芋は、主食代わりとなるほどの糖質を含み、ビタミン、ミネラル、植物繊維も豊富で、栄養価の高い野菜です。
芋類はいずれも穀類と野菜の性質を併せ持っていますが、里芋は野菜の性格を強く持っている芋だと言えます。タンパク質・脂質は少なく、芋の中では水分が多く、芋類の特徴である炭水化物もそれほど多くはなく、カロリーは芋類の中で最も低く、ごぼうと同じくらいです。里芋のでんぷんは加熱すると非常に消化・吸収がよくなります。
ビタミン類では、ビタミンB1が多く含まれています。B1は糖質がエネルギーになるときに働くビタミンで、一般に糖質をたくさん含む食材には豊富に含まれています。また、里芋のビタミンCは加熱しても壊れにくいことが特徴です。
ミネラル類ではカリウムが大変多く、その他、カルシウム・マグネシウム・リン・鉄・亜鉛・銅などをバランスよく含んでいます。カリウムは、血圧を上昇させるナトリウムを体外に排泄することにより血圧を下げて、高血圧の予防・改善を促します。
また、ずいきは繊維質が多いので、便秘予防に有効です。ずいきの成分のほとんどが水分ですが、干すことによって、タンパク質・炭水化物・繊維質・ビタミンB1・B2、そして特にカルシウムとカリウムが多くなります。
日本人に馴染みの深い里芋:
各地に残る風習・行事
さて、上で見てきたように、里芋は古くから栽培され、稲作が始まる以前には主食だったと考えられています。それゆえ、様々な農耕儀礼と結びついたりして、各地に里芋にまつわる風習や行事が残っています。このことが、里芋が日本人にとって馴染み深い、大切な食べ物であったことを物語っているように思います。
ここで、各地に残っている、里芋にまつわる風習や行事について、見てみたいと思います。
お雑煮には、普通、お餅を入れます。これは私たちの先祖の、米に対する感謝と畏敬の念をハレの膳に表したものだとされています。
ところが、奈良・京都を中心とした関西地方では、お雑煮にお餅とともに里芋を入れます。鹿児島など地方によってはお餅は入れず、大きな八つ頭だけ、というところもあるようです。
このように、ハレの膳をお餅あるいは里芋で祝うということは、里芋もお餅と同じくらい大切な食べ物であったということだと考えられます。
日本のお正月〜お雑煮をめぐる物語〜/日本列島雑煮文化圏図
http://www.konishi.co.jp/html/fujiyama/zouni/zouni/index.html
京都北野天満宮:「ずいき祭」
ずいきで作られた神輿を、収穫されたばかりの里芋や稲の初穂、野菜などで飾って市内を巡行し、最後は天満宮に奉納します。
毎年10月1日〜5日に行われます。
滋賀県野洲市御上神社:「ずいき祭り」
五穀豊穣を感謝して行われる秋祭り。ずいきを使って作った5基の神輿が、神社へと巡行し、奉納されます。
滋賀県日野町中山野神山(熊野神社):「芋競べ祭」
中山の東西2集落が里芋を持ち寄り、イモから葉までの長さを競い、豊凶を占います。
西が勝てば豊作、東が勝つと不作になると言い伝えられているそうです。
旧暦8月15日の夜に月見をする「中秋の名月」の風習がありますが、このとき、月見団子や里芋を供えます。このことから「芋名月」とも言われています。
この月見の宴をはじめとして、里芋は、古くから儀礼食に欠かせない食材でした。
秋の里芋の収穫期に、河川敷などの野外で、里芋・こんにゃく・ねぎ・肉などを大鍋で煮て、大勢の仲間と食べるという楽しい行事です。芋煮祭りの変形したものだと言われています。
職場などで恒例行事になっているところもあるそうです。
名称や芋煮に使う材料・味つけは、地域によって異なり、いろいろなものがあるようです。
http://www.y-yeg.jp/imoni/
毎年9月の第1日曜日に、山形市の馬見ヶ崎河川敷で、「日本一の芋煮会フェスティバル」が行なわれています。
東北の秋の風物詩「芋煮会」の「芋煮」を作ってみました
さて、この「芋煮会」、楽しそうだし、おいしそうだなぁと思い、今回は「芋煮」を作ってみることにしました。
上に書いたように、豚肉・味噌味、鶏肉・醤油味、牛肉・醤油味、魚を入れる…等、いろいろな材料・味つけの芋煮があるようなのですが、今回は山形県内陸地方の牛肉・醤油味の芋煮を作ってみることにしました。
こちらのレシピを参考に、作ってみました。
使った材料は次のとおりです。
芋煮会のイメージで、大きな鍋でたくさん作った方がおいしそうな気がして、記者の家にある一番大きな鍋を動員し、多めに作りました。ですので、材料も多めになっています。
牛肉 200g(レシピの分量に比べると、少なめです)
こんにゃく 1枚
ねぎ 2本
舞茸 1パック
しめじ 1パック
調味料:醤油、日本酒、てんさい糖(少量)、みりん
(アレンジで)塩、粉末昆布
まずは下ごしらえです。
里芋は皮をむき、適当な大きさに切ります。
切った後、さっと水で洗いました。
こんにゃくは手で一口大にちぎり、下茹でしました。
包丁で切るより、手でちぎった方がおいしくなるそうです。(味がしみやすいようです。)
ねぎは、斜めに切ります。
この写真は1本分ですが、後で増やしたくなり、さらに1本追加しました。
舞茸としめじは、石突きの部分を取り、ほぐしておきます。
牛肉も適当な大きさに切ります。
他のレシピですが、牛肉は少し脂が多めのバラ肉にするとおいしい、という情報がありましたので、バラ肉にしました。普段はほとんど牛肉を買わないので、バラ肉切り落としといえども、ちょっと贅沢な感じがします。
さて、これで下ごしらえは完了です。
次に、鍋で牛肉を炒め、日本酒・醤油などで軽く下味をつけ、いったん取り出しておきます。
炒めるのはさっと火が通る程度で、炒めすぎないのがコツのようです。
今回、炒める際に油は入れず、はじめに牛肉の脂身のところを炒めて脂を出してから、肉を入れました。
(なお、上記のレシピにも書かれていますが、野外で作る時は、火力調節が難しいためか、あるいは手順を省略するためか、「先に牛肉を炒める」のは、しないことの方が多いそうです。
はじめから鍋に水を入れ、里芋とこんにゃくを煮て、里芋がやわらかくなったら牛肉を入れる、という方法が主流、とのこと。)
牛肉を炒めた鍋に水を入れ、里芋・こんにゃくを入れ、少しだけ醤油を入れて、煮ます。
レシピによると、「このときの水の量は、多め!」、「最後にうどんを入れるならば、相当多めの感じにする」。うどんを入れるのもおいしそう…と思い、水はかなり多めにしました。
煮ていると、アクが出てきますので、すくって捨てます。
次々と大量のアクが出てきて、びっくりしました。すくってもすくっても、出てくる…という感じでした。写真は、何度も何度もアクを取った後ですが、まだこんなに出てきています。
芋がやわらかくなったら、牛肉を鍋に戻し入れます。
そして味つけをします。
まずは醤油・酒・砂糖(今回はてんさい糖)。
酒は、他のレシピですが「地酒がポイント」と書いてあったのを見たので、ちょっと奮発して料理酒ではなく、日本酒を入れてみました。
砂糖は、レシピによると「あくまでも大さじ1以下」。今回はてんさい糖を使い、小さじ2杯くらい入れました。
醤油は、味を見ながら加えていきました。
さらに、甘みが足りないように感じたので、みりんも加えました。
それから、思いつきで、塩少々と粉末昆布(小さじ3杯くらい)も投入。
調味料を少しづつ加えて、その都度味をみながら、味つけをするとよいと思います。自分が納得のいく味になるまで。
今回は水が多かったので、調味料もかなりの量を使いました。
味つけをしたら、舞茸としめじを入れて、煮ます。
きのこたっぷりです。
しばらく煮込んだ後、ねぎを入れます。
ねぎも、かなりの量です。
さらに煮込んで、出来上がりです。
写真では、主役の里芋が下に沈んでいてあまり見えませんが、「芋煮」、完成です!
里芋もたっぷり入れて、盛りつけます。
さてお味の方は?
里芋が口の中で、とろっととろけます。
牛肉・きのこ・野菜のだしがしっかり出ていて、わりとあっさりしているのですが、コクがあります。
そして、あったまります。これからの季節、いいですね。
ごはんにも合います。
おいしかったです!
芋煮を食べた後、残り汁にうどんを入れて食べるのも、楽しみです。
今回は普通にうどんを入れるのと、そして、「カレールーを入れて、カレーうどんにする」という楽しみかたもあるようですので、それもやってみました。
まずは普通のうどん。
うどんも合いました!具がしっかりしていて、やはり里芋がとろけて…おいしかったです。
唐辛子を少しふってもいいですね。
そしてカレーうどん。
里芋やこんにゃくといった通常のカレー(うどん)には入っていない食材もありますが、食べてみると、全く違和感はありませんでした。
だしがきいていて、まろやかで、おいしかったです!
「旬と薬効 食べもの百科」 保健同人社編集部 編 保健同人社、1993年
「旬の食材 秋・冬の野菜」 講談社 編 講談社、2004年
「サトイモの絵本 そだたてあそぼう[72]」
吉野熙道 編、城芽ハヤト 絵 農山漁村文化協会、2007年
植物って、ホント、すごいですね。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2009年10月08日の過去記事より再掲載)