まちの中の建築スケッチ

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内子町の内子座
——伝統の町の拠点——

愛媛の内子町には、2度目の訪問である。和ろうそくで栄えた町、幕末、高知から梼原を経て長州への、脱藩武士のルートにもなったようである。そんな町に、大正年間に芝居小屋が作られた。元気をもらう場所として今も現役で、歌舞伎に限らず、さまざまな催しに活用されている。
5年前に来たきっかけは、株式会社タケチの方に、松山市と内子町の間の砥部町の廃校になった木造校舎を、工場として地元の雇用にも活用しているという話を聴いて、是非訪れたいということで実現したものである。松山では「安全な建物とは何か」の講演をして建築基本法の話もさせてもらった。
その時の話を聴いていただいた武智和臣氏から、「JIA(日本建築家協会)の支部長会があるので話をしてもらえないか?」という連絡があったのは、7月。すぐに了解して、今回の訪問が実現した。空港では、沖縄から来られた伊良波朝義氏と一緒になり、今は松山在で、以前沖縄で仕事をしたこともあるという中尾忍氏の車で、内子町自治センターへ。
全国の支部長や愛媛地域会のJIA会員、内子町の職員の方も一緒に、1時間弱、「建築のための基本法を」と題する話を、聞いていただいた。宿は、武智氏設計の「古久里来」。ご主人は元内子町職員で25年前からアグリ・ツーリズムに魅せられ、ご夫婦で、小田川を少し遡ったところに4部屋だけの、しゃれた宿を経営している。
5年前とは、また別の愛媛の山間地を味わった。翌朝、大江健三郎の生家も近くの大瀬の集落にあって訪れた。町並みは美しく保全されている。大江さんの在籍した、原広司設計の大瀬中学校も見学できた。一時は、250人いた生徒が今は25人だと言う。円筒形の音楽室も工作室もトップライトが柔らかい光を取り込んで、とても贅沢な空間である。

神田順 まちの中の建築スケッチ 内子座

四国地区で初めて、1982年に指定された伝統的建築物保存地区を中心に、内子町を2時間ほど散策した。まずは内子座を訪れ、中から聞こえる音曲や声を聴きながらスケッチと意気込んだのであるが、手前の広場は少々狭く、かなりの近距離で歪んでしまう。大正天皇の即位を記念して1916年(大正5年)建造というが、そんな雰囲気も感じられた。
いくつもの古い店はもちろん、新築の家も白壁に瓦屋根で景観への配慮が感じられる。和ろうそくの大森屋、昭和を感じさせる活動写真館の旭館など、レトロを味わって帰路に着いたが、内子町は、町並み保存、村並み保存、山並み保存が魅力を作るとある。これからも、芝居小屋が楽しさの拠点となる、小さな町の一つの姿を堪能できた。