色、いろいろの七十二候
第74回
蚯蚓出・緑化と緑視
二十四節気
立夏
若緑色 #98D98E
七十二候
蚯蚓出
若草色 #C3D825
ゴーヤを使った緑のカーテンの準備の話題が、あちらこちらから聞こえてくる季節になりました。一年草のゴーヤは、この時期に苗を植えると夏には大きく育って窓や壁を覆ってくれます。
夏の室内の暑さを決定づけるのは必ずしも室温(空気温)だけではありません。窓から日差しが入れば暑くなるのはもちろん、外壁や窓の温度自体が上がれば、その温度が放射熱として室内に届きます。
緑のカーテンは、単に家の壁や窓を日陰にして日射を防ぐのではありません。
すだれやよしずといったものは、日射遮蔽に効果がありますが、日射が当たり続けることで、自身の温度が上がり、熱を放射することになります。
緑のカーテンの植物は、水分を含み、それを蒸散することで、表面温度の上昇を防ぐ力も持っているため、よしずやすだれなどの日射遮蔽よりも、さらに効果が高いというわけです。
エアコンをいくらかけても、家の外の環境はよくならないどころか、室内の熱を室外機から放出する点で、ヒートアイランド現象の一助となってしまいます。
あたりまえのことですが、室内の環境には、室外の環境が大きく影響します。これを室内の空調だけで片付けようとすれば、どこかにひずみが出るものです。
室温ではなく、体感温度が重要だ、ということは常々「びお」でも訴えています。
緑のカーテンが、人に心地よさをもたらしてくれるのは、単に放射熱を防いでくれるから、だけではありません。人はやはり、自然に安らぎを感じるからです。緑のカーテンは、たとえそれがベランダに作られた小さなものであっても、自然との連続性を想起させます。
「緑化率」という言葉はよく知られていますが、近頃は「緑視率」という言葉も耳にするようになりました。
建物の正面から見たみどりの割合を示すもので、緑視面積(正面から見たみどりの面積)/敷地幅×建築高さ×100で割り出せます。緑化率が、敷地面積に対する緑地の割合であることに対して、建物の垂直面にある緑を算出するものです。
平面上、どれだけの緑があるか、ではなく、人の目で見た時にどのぐらい緑があるか、という感じ方を表すものともいえます。緑視率が高いと、人はやすらぎ、さわやかさといったものを感じるという調査もあり、緑のカーテンの心地よさもうなづけます。
大阪府では、府民が実感できる緑を創出するとともに、ヒートアイランドの緩和を目指すとして、「みどりの風促進区域」を指定し、「緑視率」などを要件に、建ぺい率や容積率の緩和などの措置をとっています。それに関連して、こんな資料がありました。
なんともストレートなタイトルではありますが、緑視率についても解説がありますので、ご一読ください。
この資料にも民間独自の取り組みとして紹介されている大阪駅前の丸ビルは、緑化に使われているのが植物だけでなく、人造物が混ざっていると話題になりました。上部はほとんどが造草で、サーモグラフィでは通常の外壁より温度が高いという皮肉な結果になっているようです。
「緑視率」が、単に緑色を増やすことで人がやすらぐ、ということであれば、それでもよし、としてもいいでしょう。しかし、ヒートアイランドをふせぐ、ましてや緑視率によって規制の緩和がある、となれば、緑化偽装も決して小さな問題ではありません。
国内の垂直緑化建築では、福岡県のアクロス福岡が有名です。現在では「天神岳」とも呼ばれ、都市の中に山があるかのようにみえるそれも、建築直後は、コンクリートの山が出来た、といわれ、失敗作と揶揄されました。ランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんは、その批判を受けながら、将来面白いことになるよ、とまったく動じていなかったそうです。その想像どおりに、今もなお植栽の種類が「自然に」増え、念のための潅水設備もありながら使ったことはない、という山が出来上がり、変化し続けています。
田瀬さんはかつて、住宅の庭の仕事は行いませんでしたが、2013年に亡くなった建築家・永田昌民さんとの出会いもあり、住宅の庭も手がけるようになりました。町の工務店ネットの「一坪里山」の提唱者でもあります。植物は建材ではない、図面に書いておしまいではない、と田瀬さんは言います。その植物の変化を通じて、人間も変わっていくのだといいます。
緑があればいい、から、もう一歩進んで、その関係を考えてみませんか。
(2014年05月05日の過去記事より再掲載)