色、いろいろの七十二候
第89回
土潤溽暑・金魚
二十四節気
大暑
向日葵色 #FCC800
土潤溽暑
藍白色#B2B2B2
自然が生み、人が育てた金魚
子どもたちを楽しませる縁日の定番といえば、射的、ヨーヨー釣り、わたあめにお面、他にもたくさんありますが、金魚すくいは、生き物が相手ということもあって、異彩を放っています。
幼い頃に、金魚すくいの金魚を飼った、という思い出のある方も、多いのではないでしょうか。いつか幼い我が子が、そのときの自分と同じように、金魚を飼いたい、という日がくるのかもしれません。
金魚すくいの金魚は、主に和金と呼ばれる種類で、日本に入ってきた最初の金魚です。原産地は中国ですが、日本にはじめてはいってきた金魚ということで、和金と呼ばれています。和金の先祖をたどると、中国のフナ(ジイ)の赤色変色種(ヒブナ)で、これが突然変異したものが和金です。
この和金をもとに、人はさまざまな品種を生み出して来ました。琉金、出目金、蘭鋳といった金魚の種類はみな、和金に端を発するものです。
出目金は、出目の遺伝子を持った金魚を掛けあわせて生まれたものです。
出目金同士の子は、すべて出目の金魚になります。
出目金と普通目の金魚の子は、みな普通目になります。
この普通目同士の子になると、普通目と出目金が3対1の割合で生まれます。
最初の子がみな普通目になるのは、メンデルのいう優性の法則、そして次世代に3対1で優勢の子が多くなるのは、分離の法則です。
こうした遺伝の性質を利用して、交配を繰り返すことによってつくられた雑種が、金魚です。
人間が選び、掛けあわせて行かなければ、金魚同士の子はやがて、優勢な、よりフナに近い存在に変わっていく、と言われています。
金魚ももともとは野生の魚でしたが、金魚が金魚であるためには、人の手が加わり続けなければならないのです。
金魚は、掛け合わせによって人が生み出してきた、という点では、犬と共通するところがあります。
ところが、ブリーダーによる犬の放置は時折問題視されるにもかかわらず、金魚を川に放流するイベントなどは、むしろ微笑ましさのほうなものを持って報道されることがしばしばあります。
「人為」と「自然」の二極だけで物を見ると、生き物は自然がよい、ということになってしまうのでしょうか。在来種ではない金魚を川に放流することは、金魚にとっても、その川の他の生き物にとっても、好ましいことではないはずです。人の手で生み出した金魚は、人の手で育てきるのが責任、というものではないでしょうか。
金魚すくいでとってきた金魚は、ストレスがかかって弱っています。金魚が弱ったときは、0.5%の塩水浴で回復することがあります。金魚の中には40年以上生きた、という記録もあり、大切に飼えば、長くともに暮らせる生き物です。
金魚の美しさ
「原色金魚図鑑(池田書店)」には、「かわいい金魚のあたらしい見方と提案」というサブタイトルが付けられています。金魚の種類の紹介と、それぞれの金魚をどう見て楽しむか、という提案のほか、金魚の産地で働く人々や、先に挙げたような金魚の遺伝や色のメカニズム、そして大切に飼うためのノウハウなど、金魚にとりつかれた人たちの熱い思いが伝わってきます。
ヒブナ(緋鮒)の変種である金魚に、「金魚」という名前をつけたのは、見事という他ありません。動物や植物を含めて、自然のものを美しいと思う心は、人間だけの特権です。
「美しい花がある、花の美しさというようなものはない」という小林秀雄の言葉があります。金魚でも、他の魚でも、それは同様なのかもしれません。
(2013年07月23日の過去記事より再掲載)