まちの中の建築スケッチ
第48回
最高裁判所
——コンペ建築の威容——
最高裁のコンペが行われたのは、筆者が建築の学生になったばかりのとき(1968年)ということもあり、大いに気になった建物である。その少し前に行われた国立劇場のコンペは、竹中工務店設計部の岩本博行(1913-1991)、そして最高裁は鹿島建設設計部の岡田新一(1928-2014)ということから、ゼネコンの設計部が、ただ施工するだけでなく、デザイン力を世の中に示したという印象もあった。
巨大な壁が平行に並び立ち、その外壁面は堅い花崗岩である。皇居の内堀通りから国道246号線(青山通り)が始まる三宅坂交差点にある。そこは高架の首都高速道路も通っており、車を走らせていても威容を誇る白い壁がよく見える。
その後の大きなコンペとしては、オペラやバレエのための第二国立劇場が、やはり竹中工務店設計部の柳澤孝彦(1935-2017)の案で実現しているが、スケッチに適しているのはどれかと思いを巡らし、最高裁に挑戦してみた。
残念ながら、地上から建物を眺めようとすると、スケールが大きすぎてとらえにくい。平和の群像のある、小さな噴水公園があるものの、人が溜まる雰囲気はあまりない。全景を見ようと道を渡ると、何車線もある車列越しに眺めることになる。そこはお濠沿いの道で、スケッチブックを構えると、次々と皇居一周のランニングの人々が通り過ぎる。おそらくは、ゆっくり建物を眺めていようなどという場所はみあたらない。
歩いて周囲を巡ると、石張りの箱の組み合わせのようでもあり、さまざまな印象を与える。小法廷が並んでいたり、事務スペースだって相当な規模だろうと想像する。ただ、これも街路との間には、木々が大きく育っていて、外壁とのコントラストは良いが全景として眺められるところはほぼないと言ってよい。
東京地方裁判所は、四角い高層ビルで、官庁街の一画に目立たない存在であるが、やはり最高裁判所には、相応しい形を求めたという当時のコンペの強いねらいが感じられる。
岡田新一氏は、東京大学の建築学科では15年先輩にあたるが、首都機能移転の議論がさかんなときに、地方分権のあり方や日本の未来のグランドデザインについて、呼ばれて話を伺ったことがある。多くの建築家や都市計画家の名を連ねて、新しい日本を作ろうという運動としても展開されようとしていた。建築基本法制定の目指すところとも通ずるものを感じた。現実のものとなる様子はまだ見えないのは残念である。建築のあり方やまちづくりの議論は、政治の議論でもある。最高裁は、どのような法に基づいて裁きをするか、国民に納得の行く最後の判断をしめすところである。その場を提供するのがこの建物であり、ヒューマンスケールや静けさとは対照的な場所に建つが、喧噪に煩わされない建物になっているのだと納得した。