まちの中の建築スケッチ
第52回
国際子ども図書館
——明治建築の再生——
上野の森は、もともとは徳川将軍の菩提寺である寛永寺の地所であり、明治期に公園として整備された。明治の建物が残るということからも歴史的に物語性を持つ建築が少なくない。旧東京音楽学校の奏楽堂も原型を保っている。すぐ近くにある国会図書館国際子ども図書館は、「子ども」から想像できないほどにどっしりした威容をもっているのだが、その理由は小説『夢見る帝国図書館』(中島京子著)を読むとよくわかる。生まれは明治39年(1906年)、大日本帝国の帝国図書館である。
明治政府が、世界の一等国として誇るには立派な図書館が必要ということで計画された。ところが、日清・日露と戦費がかさむ中で、全体の3分の1の第1期工事が完成したのは着工してからなんと30年後の1929年。その後はまた第2次大戦の荒波にもまれ、さらに戦後は国立国会図書館の上野分館として位置づけられ、2002年になって今の児童図書館になった。2015年にはガラスのアーチ棟も増築され、全体として新しい建築に生まれ変わっている。明治と現代の融合したおしゃれな建築だ。
スチールサッシや、銅板の樋、軒飾りはボロボロになって、新しく取り換えられたというが重厚なもの。元は鋳鉄で作られた立派に造形された避雷針もアルミ製で作り直され、外観全体は明治の創建時の様子をそのままに保っている。
多くの文豪が帝国図書館に通ったことは小説に書かれていて知った。戦後しばらくの間は、上野の森は今でいうホームレスも多く、そんな人たちも本を求めて図書館に通ったことが、『夢見る帝国図書館』のテーマの一つにもなっている。想像に難くない。
江戸から明治に移行するときに、上野の森は国の威光を示すのに便利な地でもあった。何度か博覧会の会場に使用されたり、今の博物館や図書館の計画が作られた。戦後も世界遺産となったル・コルビュジェの国立西洋美術館や前川國男による東京都美術館、東京文化会館も公園の一画に場所を得ている。
公園の中では、上野動物園も大きな面積を占めているが、全体として緑も豊かで文化を味わうことのできる雰囲気がある。国際子ども図書館が児童書専門の図書館であることはわかるが、国際の意味はどういう趣旨なのだろう。アメリカやイギリスでも公立図書館を訪れたことを思い出す。国会図書館は少しばかり敷居が高い気がするが、この建物は児童専門書にこだわらなくても、夢見る図書館として、いつでも誰でもが知に触れることができる場として、長らえてほしいものである。