びおの珠玉記事
第82回
森里海から・仁尾の風穴
香川県三豊市仁尾町で「風穴」が約半世紀ぶりに再発見されました。場所は志保山の中腹で、「叺街道」と呼ばれる仁尾から高瀬の比地に抜ける旧街道にその登山口はあります。登山口付近に車を止めれば、そこからは徒歩10分程度で風穴にたどり着けます。
風穴とは冷風が吹き出す洞窟や岩場のことを指し、冷蔵庫のなかった時代には“天然の冷蔵庫”として活用されていたようです。仁尾町の風穴にはコの字型の石垣が残されており(一部修復し再現)、石のすき間などから夏でも冷風が吹き出しています。
世界遺産に指定された「富岡製糸場と絹産業遺産群」においては「荒船風穴」が蚕種の貯蔵施設として絹産業を支えていたことが知られています。仁尾の風穴もかつては蚕種の貯蔵施設として、蚕種を冷蔵し蚕の孵化を遅らせることで養蚕を年に複数回行うことを可能にしていたようです。規模はまったく違うものの、仁尾町でもかつて養蚕業が行われていた時期があったことが伺い知れます。
香川大学工学部の長谷川教授によると、「冷風が出ているのは、崩落した安山岩が堆積(ガレ場)し、通過する風が地下水で冷やされているのではないか。冷風の吹き出し温度が12~13℃と低いことから、安山岩の堆積量(ガレ場長さ)は相当量あると推測する。風がどこからどのように流れて(入って)くるのかは、現時点ではわからない。」ということです。
身近にある地元の小さな産業遺産。是非足を運んでみてください・・・。
文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/
編集部から
風穴は、本文中にもあるように、養蚕に用いられたり、他にも天然の冷蔵庫として利用されてきた記録が残っています。かつては「風穴業」と呼ばれる産業として成立していました。風穴養蚕は明治には国内で300箇所を数えたといわれています。
電気式の冷蔵庫が普及して、風穴業は衰退します。今回紹介した仁尾の風穴のように、その場所も忘れられ、後世になって「発見」されることがあります。
風穴は温度が低いことから、周辺とは植生が変わります。本来は高山にあるような植物が、低い標高でも見られることがあります。風穴めぐりをしたら、ぜひ植物にも目を向けてみてください。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年08月23日の過去記事より再掲載)