びおの珠玉記事

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森里海から・カワドと水舟

郡上八幡のカワド

郡上八幡のカワドや水舟は今でも現役で使用されている。使われることが文化の継承には最も優れている。


郡上踊りや郡上鮎で知られる岐阜県の郡上八幡。ここには市内を流れる長良川やその支流の吉田川の他、豊富な湧水を利用した伝統的水利用形態が今でも残っています。その一つが川や用水路を洗い場として利用する「カワド」と呼ばれる水辺空間です。カワドとは用水路を「せぎ板」と呼ばれる板で流れをせき止め、水位を上げて洗いものをする場です。

カワドのせぎ板せぎ板で用水路の水をせき止めたところ

川で洗濯せぎ板で水位を上げて洗い物をする

昔からの習慣が今でも残っていて、地域の共同使用のカワドには今でも地域の主婦達が洗い物をするために集まり、自然に地域コミュニティの場にもなっています。上流のカワドでは魚介類、野菜などの食物を洗ったり、食器洗いにも利用されているようです。夏のカワドにはビールなどの飲み物、スイカ、トマトなども冷やされています。昔からの水利用の知恵が、今でも息づいていて季節の風物詩としての光景をつくっているのですね。

屋根付きカワド共同のカワド。地域のコミュニティの場でもある。

もう一つの郡上八幡特有の伝統的水利用システムが「水舟」です。

水舟のしくみ絵図水舟のしくみ図(「水の恵みを受けるまちづくり」より引用)

町を歩いていると、時折見られる木や石で作られた大きな水槽。湧水を引き込んだ二槽または三槽からなる水槽のうち、最初の水槽が飲み水や食べ物を洗うために使われ、次の水槽は汚れた食器などの洗浄に使われます。残飯はそのまま下の池に流れ、飼われている鯉など魚のエサとなり、水は自然に浄化されて川に流れこむという仕組み。水を大切に有効に使う先人の知恵ですね。そしてそれは水利用の機能としてだけではなく、水舟という、人が作った制作物が街の点景として景観をつくっていることも、見逃せない重要なことだと思います。生活に密着した「暮らしの風景」が地域の本物の景色を映し出すのではないでしょうか。

コンクリート製水舟

プラスチック製水舟

「カワド」や「水舟」が担ってきた機能性という側面は、もしかしたら今では必要不可欠のものではなくなってきているのかもしれません。そのような状況下でこのような水利用の文化を継承していくということの難しさを改めて感じます。これはカワドや水舟に限ったことではありませんが、単に保存・継承という以前に、その場に残していく必然性のようなものがないと、生き生きとした魅力的なものとしての継承は難しいような気がします。しかしながら生きた形で先人の知恵を後世に継承していくことは、我々世代の責任だと痛切に感じる今日この頃なのです・・・。

郡上八幡の水事情については下記書物に詳しくあります。
「水の恵みを受けるまちづくり(渡部一二著 鹿島出版会)」
「水縁空間 住まい学大系/055(渡部一二他著 住まいの図書館出版局)

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年05月12日の過去記事より再掲載)

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。