森里海から「あののぉ」

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家の浦二頭獅子

獅子頭と油単特別な設えの獅子頭と油単(ゆたん)。半端ない風格がある。

香川県にはなんと800組もの獅子舞が現存しているそうで、その数日本一なのだそうです※1。そのうち「県指定無形民俗文化財」に指定されているものが5組あります。虎頭の舞(東かがわ市白鳥、昭和44年指定)・尺経獅子舞(東かがわ市川東、昭和44年指定)・吉津夫婦獅子舞(三豊市三野町吉津、昭和49年指定)・綾南の親子獅子舞(綾歌郡綾川町、昭和52年指定)そして家浦二頭獅子舞(三豊市仁尾町家の浦、昭和29年指定)です。中でも家の浦二頭獅子は県下で最も早くに指定を受けています。いわば香川の獅子舞の頂点に君臨する獅子舞と言っても過言ではありません。

神亀年間(奈良時代)より伝わると言われ、猛々(たけだけ)しく勇壮な舞振りは武道の流れをくんだ古流小笠原匍獅子(はいじし)の流儀。豊作踊り的な獅子舞とは趣を異にし、静的・動的に雄雌二頭が調和のある動きを見せる、格調の高い気品のある獅子舞です※2。獅子頭は150年程前の高松の伏見伊八郎という作家の作品で、一般的な獅子頭に比べて2倍以上の重さがあるそうです。また獅子の着物「油単(ゆたん)」は赤のラシャ地に刺繍が施された豪華なものです。

※1 Webサイト「物語を届けるしごと」より
※2 Webサイト「讃岐丸亀basara88」より
香川県大将軍神社の獅子舞の奉納

それはスローテンポではじまる。

地元では本芝(ほんしば)※3と呼ばれる20数分に及ぶフルバージョンの舞は、詫間町の船越八幡宮と地元仁尾町家の浦地区の大将軍神社での奉納の際に演じられます。香川の他の一般的な獅子舞とは明らかに異なる、独特のリズムとテンポに龍笛の音色が絡んで独自の世界を作り上げます。

※3 完全版の舞のこと。これに対して簡略版を「半芝(はんしば)」と呼ぶ。半芝は主に御旅所での舞の際に使われる。
香川県無形民俗文化財の家の浦二頭獅子舞

ここから20分以上の長期戦だ。

その演技も個性的で雌獅子の背返り(横にでんぐり返りを見せる)など見所も豊富です。二頭獅子には夫婦獅子や親子獅子などがありますがここの二頭獅子は恋人同士だと地元の人から聞きました(確証はありません)。いずれにせよ神社を背景に境内で繰り広げられる舞は、観衆を巻き込んで別世界へと連れて行ってくれます。一見の価値ありです。

2020年と2021年は残念ながらコロナ禍の影響で中止になりましたが、来年は久しぶりにお目にかかれることを楽しみにしたいと思います。地元大将軍神社での奉納は毎年10月の体育の日(祝日)13:00頃から、船越八幡宮での奉納は10月の第一日曜、こちらは地域の7組の獅子舞が同時に奉納されます。大迫力です。

大将軍神社と観客

舞が終わると長い拍手喝采の後、周囲は満足感と感動の空気に包まれてなかなか立ち去ろうとしない。

香川の西讃地区のお祭りと言えば「ちょうさ祭」ですが、地区によっては獅子舞が盛んな地区もたくさんあります。後生に残していきたい大切な伝統文化のひとつですね・・・。家の浦二頭獅子舞は昭和29年8月に香川県無形民俗文化財に指定され、現在は「家の浦二頭獅子舞保存会」によって保存継承されています。


※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士