森里海から「あののぉ」

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生態系に繋がる庭

多喜屋玄関前の植栽多喜屋アプローチ廻り(ほとんどが地域のDNAをもつ植物)

建築や住宅の植栽を含めた外回り(外構計画)は、建築の設計においてとても大切なものです。建築を引き立てる要素として、また街の風景をつくる要素としてもその役割は大きいものがあります。なかでも植栽計画における植物の果たす役割はランドスケープデザインとしてもとても重要です。植栽工事の施されている建築とそうでないものとでは、あきらかに周辺空間の豊かさが違ってきます。

菅組社屋の在来種植物

菅組本社外構(多種の在来種植物の混植は生物多様性を生み出す)


そんな大切な庭づくりの際に提案させていただきたいのが在来種植物による樹木計画です。昔から日本にある在来種の植物をできるだけ多くの種類植栽することで庭としての役割のうえに、小さな生態系(ビオトープ)として地域の自然と繋がることができます。そしてそこは野鳥や昆虫など野生生物の生息場所、中継場所としての機能を持ち始めます。
人々の心を癒やす緑の空間がエコロジカルネットワーク(地域の生態系をつなぐ)の役割をも併せ持つ庭として機能し始め、人と自然を繋ぐ架け橋になってくれます。
菅組社屋前の丁寧に剪定された植栽

菅組本社外構(1種の植物による構成はシンプルだが生物多様性への貢献度は低い)


生物多様性の保全、回復は今「気候危機」の問題同様に極めて危機的な重要な課題となっています。建築・土木をつくる集団として、生物多様性に対して何が出来るのかを本気で考えていく必要があると思っています。エコロジカルネットワークとしての庭づくり、外構計画は、そうした考え方の延長線上にあるものです。
讃岐緑想の庭

讃岐緑想


菅組で運営するモデルハウス兼宿泊施設の「讃岐緑想」では外構計画(植栽計画とも)をランドスケープデザイナーの田瀬理夫氏にお願いしました。在来種の中でも地域の植生を考慮した樹種選定により約60種類の草木を選択して配植。うち、10数種は三豊市、観音寺市の野山で採種した種から育苗した地域のDNAを持つ苗木を植えています。讃岐緑想の外構工事は、日本生態系協会が創設した環境評価手法「ハビタット評価認証(JHEP)」において最高ランクのAAAを取得いたしました。四国地方において初、また戸建てモデルハウスとして全国初となるJHEP認証事業となりました。(あののぉ58号でも取り上げました)

また古民家宿「多喜屋」の外回りの植栽はほとんどの草木を地域種苗(三豊・観音寺の種からの苗木)としています。


ウッドデッキ周りにも自然に緑を配置

多喜屋庭(ウッドデッキ廻り)


庭に地域の植物を数本植えるだけで、そこには小さな生態系が形成されます。そしてそれは地域の自然と繋がってエコロジカルネットワークを形成します。個人住宅の庭をはじめ、オフィスや店舗、工場、倉庫まで建築の外回りに小さな生態系をつくること。それは危機的な状況にある生物多様性にたいする小さな貢献です。そしてそれは、これからの街づくりにとって大切な要素でもあると強く感じています。


※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士