びおの珠玉記事

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鱖魚群・遺伝子組み換え鮭のこと。

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2013年12月17日の過去記事より再掲載)

焼き鮭

鱖魚群(さけのうおむらがる) です。鱖魚と書いて「さけのうお」と読ませていますが、鱖魚と鮭は違う魚です。

鱖魚と鮭については、こちらの記事を参照してください。

鮭の旬は、産卵のために川に戻ってくる頃の秋頃で、少し過ぎてしまっていますが、「鱖魚」にあわせるためにこの頃になったのでしょうか。
秋に収穫された鮭は、塩漬の新巻鮭にされて貴重な冬の蛋白源となりました。
西日本の鰤文化に対して、東日本は鮭文化を持っています。

さて、正月を飾る新巻鮭、とは別に、鮭に関するあまり嬉しくない話題が、昨年来、耳に入ってきます。
アメリカのアクアバンティ・テクノロジーが開発した遺伝子組み換え鮭、通称GMサーモン(Genetically Modified salmon)です。

遺伝子組み換え食品、というと、大豆やとうもろこしといった穀物のイメージがありますが、はじめての遺伝子組み換え動物食品として、このGMサーモンが食卓に並ぼうとしています。

GMサーモンのベースになっているアトランティックサーモンは、冬の水温が低い間は成長ホルモンを分泌しませんが、GMサーモンは冬の間も成長ホルモンを出し続け、成長を続けます。

このため、半分の飼育期間で大きさは3倍になり、漁業効率も良くなるため環境負荷も減り、価格も安くなる、と、生産者にも消費者にも環境にもメリットがあるものだ、というのが同社の説明です。

このGMサーモンは、キングサーモン(サケ目サケ科)の成長ホルモン遺伝子に、スズキ目ゲンゲ科の魚が持つプロモーター遺伝子を組み合わせたものを、アトランティックサーモン(サケ目サケ科)の卵に投与して生まれます。

この新品種に対して、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、環境への影響は小さく、食べても安全だ、という評価をしています。

もうひとつ、GMサーモンの問題は、単に口に入れなければいいかどうか、だけではなく、万が一それが自然界に紛れ込んだら、という怖さがあります。
GMサーモンは不妊のメスしか作られない、ということになっていますが、生き物には何が起こるかわかりません。何かの拍子でGMサーモンが繁殖力を持ち、自然界に出てしまうことがあるかもしれません。そういうことになると、それこそ取り返しがつきません。

サーモンにつづいて、マスとテラピアが認証を待っています。
(『(株)貧困大国アメリカより』)。

SFの世界

遺伝子組み換えは、魚だけにとどまりません。

GM豚は、糞の中のリンが少なく、「環境にやさしい」として開発されました。

食用以外のGMヤギも生まれています。人間の遺伝子を組み込まれたGMヤギの乳から、血液凝固剤をつくろう、というものです。

GM蚊、GM蛾といった昆虫も生み出されています。これらは、不妊にしたり、子孫が成長できないようにしたり、といった仕掛けをしたGM昆虫を放ち、自然の虫と交配させることで、害虫を根絶しよう、という試みです。

GM微生物も開発されていて、これを利用した食品添加物が国内でも流通しています。

さらには、牛と人の遺伝子を組み合わせて二本足で歩く牛を生み出し、食用にする、という例も…、という、最後のこれだけは、SF作品の話です。あとはみな、現実に起こっている話。

小説「ブラックライダー」の世界では、未曾有の大災害後、人肉食いも辞さないような食糧難に対して、人間の遺伝子と、絶滅したが残されていた牛の遺伝子をかけあわせて、二本足で歩く食用牛が作られました。その牛人間が知能を持って…というお話です。

これはSFの話ですが、しかし、現在でも、いろいろなところで遺伝子操作はすでに行われています。中には人間の遺伝子も使われているものもあります。思わぬところで、思わぬことが起きないのか…。「安全です」という言葉を鵜呑みにしたら、実は、という経験を、多くの人がしてきたはずですが…。

現在、日本では、GM作物を用いた加工食品の表示について、以下のように定めています。

・大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、とうもろこし、ばれいしょ、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤを使った食品が表示の対象になる。
・原材料の重い順から3位以内で、かつ全体の重さの5%以上になる材料が対象。

二番目の、重い順から3位以内で、5%以上、というルールがなんとも不可思議です。
GM作物と、そうでないものを混ざらないように管理をしていても、生産、流通、加工の段階で、思いがけず混入してしまう可能性があるため、5%以下ならそうした管理をしていた、と認めよう、という、なんとまあ、ずいぶん寛大な取り決めです。

しょうゆの成分表

小麦には現状GM作物がないので記載がありません(記載してはいけません)。重量が5%以下だったり、重量比が全体の4位以下であれば、GMであっても記載の必要がありません。


また、組み替えられた遺伝子や、それによって生成する蛋白質が含まれなければ表示しなくていい、というルールがあります。油には、こうしたものが残らない、とされています。
大量に輸入されているGM大豆やとうもろこし、なたね等は、食用油に加工されています。
大豆油の成分表

輸入大豆の7割がアメリカ産で、そのうち9割が遺伝子組み換え品種だといわれています。油には遺伝子が残らない、とのことで、遺伝子組み換えの記載が義務付けられていません。この表記で遺伝子組み換え作物を使っていない、という判断は出来ないのです。


こうしてみれば、GM食品に関してずいぶん緩やかなルールであり、実際のところ、「遺伝子組み換え作物を使っています」という表示がなかったとしても、GM由来の食品を避ける事は、結構むずかしいことがわかります。アメリカでは、遺伝子組み換え表記の記載が義務付けられていませんが、TPPによって、こうした記載は非関税障壁だと指摘されるおそれもあります。そうなれば、いずれGMサーモンが日本で認可されたとしても、そうであるかどうか、私たちには知る術がない、ということになってしまうかもしれません。

そこにあるものと、そこにないもの

私たちは、出来るだけ近くにあるものを使おう、といつも呼びかけています。その土地で手に入るものこそが、その土地の風景にもあうし、食生活にもあうのです。
とはいっても、そこでどうしても手に入らないものもあります。そうしたときに交易が起こって、文化の交流によって新しい文化が生まれてきました。

先に上げた「鰤の話」にもありますように、富山で水揚げされた鰤は、塩漬にされ、野麦峠を通って木曽谷から伊那、遠山郷といった山間部に運ばれました。
東日本では、おなじように鮭が各地に運ばれました。山で海の幸を食べるために、塩漬という保存方法も生まれ、山と海との交易も生まれたのです。

軒下に吊るされた鮭

塩引き鮭。保存の知恵や交易の産物です。


富山は昆布の消費量が日本一の県です。ただし、昆布の産地ではありません。昆布は交易の材料として、北海道から富山にわたっていたのです。この富山から、関西、九州へ、そして薩摩から琉球へと昆布は交易の材料となりました。
沖縄料理にも昆布が多く使われていますが、沖縄でも昆布は採れません。
採れないけれど、富山でも沖縄でも、昆布は郷土料理の食材としてしっかり根付いています。それは、理由があってやってきたものでもあり、時間をかけてやってきたものでもあるからです。

「そこにあるもの」を活かして、どうしても「そこにないもの」を組み合わせながら、その土地ならではのものを作る。
食べ物はもちろんですが、建物も、そうでありたいと考えています。