びおの珠玉記事

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新巻鮭(塩漬礼讃)

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2011年12月17日の過去記事より再掲載)

新巻鮭

もう40年程前になりますが、年末近くになると新巻鮭(あらまきじゃけ)なる塩鮭が我が家に届いていたのを思い出します。いまでも新巻鮭という言い方はあるようですが、当時のような風貌のものはめっきり見かけなくなりました。それは木箱の中の大量の塩に、まるまる一匹の紅鮭がどっぷりとつかったものでした。冷凍技術も真空パックもあまり発達していなかった当時、保存食といえば塩漬けか缶詰という時代でした。私は、子供心に遠く北方の海から送られてくる塩まみれの鮭が楽しみでなりませんでした。

現在の塩鮭は、甘塩、中辛、辛口などと塩加減が選べる場合が多いようですが、当時のものはなにしろ保存のための必然性から塩加減などは出来なかったと思われ、半端じゃない塩辛さでした。当時、まだ小学生だった私はそのころから塩辛いものが大好物で、他の家族は水につけるなど「塩抜き」をして食べていたように思いますが、私は塩抜きせずにそのまま焼いてもらって食したものです。焼くと塩が表面で白く結晶化して食欲をそそりました。一切れの鮭でご飯が何杯もすすみ、しかも3食ぐらいはおかずはその一切れの鮭だけで事足りていたような気がします。

焼き新巻鮭新巻鮭

数年前、「そういえば昔の新巻鮭を最近見ないな」と思ってインターネットでいろいろと調べてみました。しかし、私の記憶にある塩まみれの新巻鮭は見つかりませんでした。強烈に塩辛い塩鮭はいくつかありましたが、塩水に漬け込んだものを真空パックにしたものがほとんどで、昔のようなワクワクするような見た目の豪快さはありません。味はとても美味しいし、塩辛さも強烈なのですが何かが違うのです。もちろん40年も前の味をはっきりと覚えているわけではないのですが、確かに違います。それはおそらく塩だけで保存していたものと真空パックという保存方法があって塩はほぼ味付けのためにされているものとの違いであったり、塩そのものの質の違いもあったのではないかと想像されます。当時の塩はミネラル分やうまみをたっぷり含んだ塩だったように思います。
おもえば鮭だけに限らず、日本の保存食や珍味と呼ばれるものの多くは塩漬けの食文化でした。ウニ(塩うに)、カラスミ(ボラの卵巣の塩漬け)、このわた(なまこの腸の塩辛)、イクラ・筋子(サケの卵巣の醤油漬・塩漬)、へしこ(塩・糠漬け)、鮒寿司(塩漬け熟れ寿司)、酒盗(カツオの内臓の塩辛)、うるか(鮎の内臓の塩辛)等、全国各地の名産品として今でも数多く残っています。日本の塩漬けの食文化、後世に残していきたいものです。
今年もまた年末になると大量のミネラル塩にどっぷりとつかった紅鮭を思い出すのです。

文:菅徹夫(びお編集委員・菅組代表取締役)
菅組:http://www.suga-ac.co.jp/
ブログ:ShopMasterのひとりごとhttp://sugakun.exblog.jp/

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士

連載について

住まいマガジンびおが2017年10月1日にリニューアルする前の、住まい新聞びお時代の珠玉記事を再掲載します。