びおの珠玉記事

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暖めすぎると冷えるものって何?

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年12月17日の過去記事より再掲載)

室内の温度変化

暖めすぎると冷えるもの、その答えは人間です。
過度の暖房によって、「体が慣れる」ことなく、また室内外の急激な温度変化によって、俗にいう「冷え性」の原因をつくってしまうのです。

人の体温

人間の体温は、健康なら36〜37度程度です。

ヒトはなにも、この体温でいたい、と思って調節しているわけではなく、体温調節中枢の働きで、意識することなく最適な体温を保っているわけです。
病気をしたときに体温が高くなるのは、体内の細菌の増殖を抑えるために、細菌の増殖に適した温度を超えて増殖を抑えたり、自己の免疫系の活性化を促すためではないかと言われています。

一方で、体温が低くなると、体内の消化酵素や免疫系の働きが弱くなります。お腹が冷えると下痢をする、というのは、消化が十分に行えなくなるためといわれていますし、昨今では体を温めて病気をなおす、といった本も売れています。

暑いときに汗をかくのは、体温があがりすぎないようにするための冷却措置ですし、寒いときにブルっと震えるのも、筋肉の運動によって熱を発生させる反応です。

このように、人間は、意識することなく体温を維持・調節しています。
でも、同じ気温のところで、同じ体温の人なら、同じように寒さ・暑さを感じるかというと、そんなことはありません。

水銀体温計

低温にも、高温にも、体温には理由があります。

寒さの感じ方

人が寒さを感じるのは、温度、湿度、気流、着衣量、輻射熱、代謝量の6つの要素の組み合わせによって決まります。
温度は、言わずもがなとして、湿度が高ければ熱く感じ、低ければ寒いと感じます。
気流(風)が体感温度を下げるのは、扇風機からもわかりますね。
着衣量は、そのものズバリ、服の量。最近では高機能下着ブームで、発熱する素材をつかったものも普及してきました。夏は薄着、冬は厚着になりますから、これもわかりやすいですね。

輻射熱とは、離れているところにある熱源から出るエネルギーのことで、火の熱や、太陽の熱などもこれにあたります。冬の窓際が寒いと感じるのも、窓からの冷輻射です。
代謝量は、人体の生理的活動によって得られるものです。運動すれば暖かくなる、というのもこれに当たりますが、積極的に体を動かさなくても、最低限の生命維持活動に必要な基礎代謝や、食事によるもの(食事誘発性熱産生)があります。食事をしたあと体が暖かく感じるのは、これによるものです。
この6種類の要素が組み合わせって、寒さを感じるわけです。同じ環境にいる人でも、着衣量は違いますし、代謝量は体格や食生活によっても変わります。

そして、周辺と人の体との間では、熱のやりとりが、さまざまなかたちで行われています。
体の熱
このバランスが悪ければ、寒さ、暑さを感じるわけです。

「冷え」は、ただ寒さを感じる、ということだけでなく、熱が体にきちんと行き届かない状況をいうようです。

熱の産生が少なければ、体に必要な熱が足りず、「冷え」てしまいます。また、熱は産生されていても、それを体の各所に運ぶ血液の流れがよくなければ、やはり「冷え」が起こります。手の先や足の先が冷えやすいのは、心臓から遠く、血液による熱の運搬がうまくいかないことも原因です。
また、血流に問題があると、下半身は冷えているのに頭はのぼせているような状態にもなったりします。

冷え性は現代病

「冷え性」というのは、なかなか定義の難しい言葉で、本当に手足が冷たい「冷え性」の人もいれば、別に冷たいということもないのに、本人は冷えてこまっている、ということもあります。
体質、個人差で片付けてしまっている人もいるでしょう。

本来、人間の体には、季節に応じて体を適応させる仕組みがあります。基礎代謝量は夏は少なく、冬は多くなるといわれています。これは、冬にはより多くの熱が必要になるためでしょう。また、温度の感覚も夏と冬では異なり、冬は、快適に感じる温度が夏よりも約3度低いといわれています。

ところが、冷暖房によって、室温がいつの季節も大差なく、また一方で外気温との差が大きくなっています。
人は、急激な温度変化があると、自律神経に影響をおよぼし、血流の調整がうまくできなくなることがあります。

命にかかわるヒートショックとハイポサミア

家庭内での事故死の1位は、「浴室」で起きています。これは、暖房された室内から浴室へ、また熱いお湯へ、という急激な温度変化により、血流・血圧に影響が出て、脳や心臓に負担をかけることによる脳梗塞・心不全につながっているといわれています。こうした、急激な温度変化が体調に与える影響を「ヒートショック」といいます。

脱衣室・浴室の温度の違いによる血圧の変動

室温の違いによる入浴時の血圧変化

参考「入浴経過に伴う室温別収縮血圧の変化」より


ここまで顕著にならなくても、急激な温度変化は人の自律神経に影響を与え、血流がわるくなります。
血液には、熱を体の各所に運ぶ、という働きがありますから、血液の流れに影響がでると、体に必要な熱が行き渡らない「冷え」が起こります。

また、夏の過度の冷房など、低温の状態に体がさらされていると体温が下がり、その後なかなか体温が戻らず、冷え性になるということもあります。これを「寒冷暴露」といい、これをきっかけに冷え性になってしまうこともあります。

「冷え」は、冬ではなくても起こります。エアコンの冷房が原因で冷え性になった、というかたも多いでしょう。
夏にプールに長時間入り続けたり、夏山だからと軽装で出かけたりして、長時間低温にさらされていると、低体温症(ハイポサミア)にかかり、体が動かなくなり、やがて死に至ります。凍死とは極寒の地だけで起きるのではなく、暖かい地方でも、夏でも起こりうることなのです。

これらとはちがった「冷え」方として、ストレスによって自律神経に異常をきたすこともあり、それによって血流が悪くなり冷えを覚える、ということもあるようです。一般に冷え性は女性が多いと思われがちですが、このパターンは男性にも見られるようです。

「冷え」の原因は、時として命にかかわることもあるのです。なめてかかってはいけませんよ。

体をあたためる

前述の通り、代謝量には個人差があり、特に女性は男性に比べると基礎代謝も少ないため、熱の産生が少なく、冷え性になりやすいようです。
予防・治療のためには、外気と室温に極端な温度差を設けないこと、体を冷やし続けないようにすること、基礎代謝量をあげること、体を冷やさない・あたためる食事をすること、などがあげられます。

それぞれの項目毎に、どんな手段があるかみてみましょう。

外気と室温に極端な温度差を設けない

急激な温度変化は、自律神経に異常をきたし、冷えの原因をつくります。オフィスなどでは、自分の意志でエアコンの設定温度を変えられないこともありますが、自宅など、自分でコントロールできる場合には、外気温との差をつくりすぎないようにしましょう。

室内をいつも一定温度に保とうとすると、外気温が低い日(寒い日)には、温度差が大きくなります。そうすると、ヒートショックや、自律神経への影響が考えられます。

家は、寒さや暑さ、雨や風などの外的要因から身を守るものです。その家が、健康を害することになってしまうのは本末転倒です。

室内がずっと寒いままでは、寒冷暴露による冷え性の恐れもあります。着衣量の調節は比較的簡単に行えますので、寒いときには暖かい服をきたり、ひざ掛けをかけたり、あるいは発熱する機能性下着をつけるなど、体を冷やし続けない工夫をしましょう。懐炉(カイロ)などもいいですね。今では、カイロというと使い捨てカイロを指すようになってしまいましたが、何度も使えて、発熱量も多い白金カイロがおすすめ。ジッポーやコールマンなどからもカイロが出ていますよ。

体を冷やし続けない

室内がずっと寒いままでは、寒冷暴露による冷え性の恐れもあります。着衣量の調節は比較的簡単に行えますので、寒いときには暖かい服をきたり、ひざ掛けをかけたり、あるいは発熱する機能性下着をつけるなど、体を冷やし続けない工夫をしましょう。懐炉(カイロ)などもいいですね。今では、カイロというと使い捨てカイロを指すようになってしまいましたが、何度も使えて、発熱量も多い白金カイロがおすすめ。ジッポーやコールマンなどからもカイロが出ていますよ。

 

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基礎代謝量をあげる

ダンベル

筋肉は熱源だ!

これは、一朝一夕でできるものではありません。また、基礎代謝量は年齢とともに代わり、10代をピークに下がり、40代を過ぎると大きく減少します。
中高年になっても、若い時と同じように食べていると、お腹が出てきてしまうのは、何も運動不足なだけではなく、食べ物を代謝する力がよわくなり、結果体にたまってしまうからです。

基礎代謝量をあげ、熱の産生を得るのには、筋肉を増やすことが効果があります。「筋肉が少ないと寒い!」と覚えて、冷え性の人は筋トレをすべし。

体をあたためる食事

筋トレより簡単なようで、実は難しいかもしれないのが、食事改善です。
エアコンによる室温の均一化とならんで、現代病といえる冷え性を作り出している大きな要因に食事があります。
人の体でつくる熱のもとになっているのは、すべて食べ物です。筋肉も内臓も、食べ物によってのみつくりだされています。
この食べ物の良し悪しで、体が熱をつくり、運ぶ力が変わるのは至極当然といえるでしょう。

何を食べると温まり、何を食べると冷える、というのは、ものの本をあたればいくらでも出てきます。
真実味があるものもあれば、眉唾ものもあります。また、たとえそういう効果があるとしても、そればかりを食べることは、必ずしもいいことではありません。

たとえば、生姜は体を温めるといわれていますが、これは含まれるジンゲロンによる発汗効果によってそう思われます。たしかに生姜の入った煮物などを食べると体がぽかぽかしますね。でも汗というのは、体を冷やすために出すものです。適度にあたたまるのはもちろんよいのですが、汗で冷えるのでは、これも本末転倒になってしまいます。

あれを食べれば解決!というような魔法の食べ物はないと思った方がいいでしょう。
「びお」が提案したいのは、昔からその時期・地域で食べられてきたものには、知恵やヒントが隠されているということです。

人間の体が本来そうであったように、動植物も、寒さにあわせて体を変化させます。

例えば、冬に白菜がおいしくなるのは、凍結を防ぐために糖分を増やすから。

白菜

白菜は寒さにさらされるからおいしくなります。

冬にうまい「寒ブリ」は、脂ののった産卵前のもので、他の時期より必須アミノ酸も多くなります。

寒ブリ

養殖ものは年中売られていますが、ブリは冬にうまい魚です。


今は白菜も年中出回っていますし、ブリも、養殖のものが多く、これでは旬も何もないのです。
「〇〇を食べると体に良い!」とは、あえて書きません。どんなものでも、それしか食べないわけではないですし、食べ過ぎればまた毒になることもありうるのです。

旬のおいしいものを食べて、体も動かして、暖房の設定温度を高くしすぎず、冷えを克服しましょう!

イラスト
温度変化・人体:鈴木充弘
白菜・鰤:木下俊司

写真
温度計:EyesPic


健康な住まいづくりハンドブック