森里海から「あののぉ」

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間垣集落(まがきしゅうらく)

間垣が連なる上大沢地区

連続する石垣と間垣、奥に漁村集落

金沢から能登半島を車で2時間ほど北上すると、輪島市の西保地域に大沢(おおざわ)集落と上大沢(かみおおざわ)集落の光景が目に飛び込んできます。ここは間垣(まがき)と呼ばれるこの地方独特の背の高い竹垣で囲まれた珍しい集落です。奥能登の厳しい自然環境に対抗するために生み出された人間の知恵が、ここにしかない独特の風景をつくりだしています。

間垣とは近くでとれる苦竹(にがたけ)をビッシリと縦に並べた垣根状のもので、高さは5メートルほどもあり冬の厳しい季節風を遮ると共に、夏場は強烈な西日から集落を守ります。時に強烈な風が吹きますが竹と竹との僅かな隙間から適度に風が抜けるため、風圧で倒壊することはないといいます。昔の人の素晴らしい「生活の知恵」ですね。苦竹は5~6年で腐ったり折れたりするため、各家で毎年少しずつ交換するのだそうです。

大沢と上大沢の間垣集落は国指定の重要文化的景観に指定されています。文化的景観とは,以下の文化財を指します。「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(文化財保護法第二条第1項第五号より)」文化的景観の中でも特に重要なものは、都道府県又は市区町村の申出に基づき「重要文化的景観」として選定されます。大沢地区は2015年に放送されたNHKの朝ドラ(連続ドラマ小説)「まれ」のロケ地にもなっているようです。

建築物や自然、人工の構築物、農山村風景などにその地にしかない景観・地域性を尊重すること、残していくことはとても大切なことだと強く感じます。今時の言葉で言うなら、ダイバーシティ(多様性)の尊重といえるでしょうか。日本全国にはこのようなちょっとした地域の個性が数多く残されていると思います。それらを大切に育てていくことは、これからの新しい豊かな社会への指標として欠かせないことのように思います。

漁村上大沢集落

間垣に護られた漁村集落


※ 本連載は、菅組が発行する季刊誌『あののぉ』で著者が連載している内容を転載しています。

著者について

菅徹夫

菅徹夫すが・てつお
1961年香川県仁尾町生まれ。神戸大学工学部建築学科を卒業後、同大学院修士課程にて西洋建築史専攻(向井正也研究室)。5年間、東京の中堅ゼネコン設計部で勤務したのち1990年に香川にUターン。現在は株式会社菅組 代表取締役社長。仕事の傍ら「ベーハ小屋研究会」を立ち上げるなど、地域資源の発掘などのユニークな活動も行う。
一級建築士、ビオトープ管理士