複数の中から選択し、ベストミックスする
再生エネルギー事情
なるほどね。結構、目からウロコの話ですね。
でしょ(笑い)。ひとたび再生エネルギーに目を向けると、選択肢は無数とまで行かなくても、幾つかあることが分かってきます。
バイオマス・エネルギー利用
もし、山の近くに住んでいるとしたら、薪エネルギーを利用すればいいのです。今の建物は断熱がいいので、吹き抜けのある家なら、薪ストーヴだけで家中の暖房をまかなうことが可能です。クックストーヴなら、ことこと料理を煮込みながら、同時に暖房することができます。
空気集熱式のパッシブソーラー(「OMソーラー」や「ソーラーれん」、「そよ風」など)を開発した奥村昭雄(建築家・東京藝術大学名誉教授)さんは、このストーヴの煙道熱を回収して暖房に用いるシステム(下図)の考案者でもあって、とてもユニークなものです。何より、直火を楽しめるのがいいですね。ナラやクヌギ、リンゴ、クルミといった木から立ち昇る赤い炎は何ものにも代えがたいという人がいます。そのリラックス効果は大きく、家族の団居(まどい)を生んでくれます。
薪ストーヴは、鋼鉄、軟鉄といった違いはありますが、分厚い鉄製で、丁寧に扱えば一生ものです。
「奥村昭雄のディテール 空気・熱の動きをデザインする」より
著:奥村昭雄、発行:(株)彰国社
ペレット・ストーヴはどうなんですか?
山から少し離れた場所でバイオマス・エネルギーを使いたい場合は、容易に固形化でき、輸送に便利なペレット・ストーヴがいいですね。最近では、デザインのいいペレット・ストーヴが、比較的手頃な価格で求められるようになりました。ペレットそのものも、集成材をつくっている岡山の銘建工業のものなど、きれいな炎を生んでくれるホワイト・ペレットを求めることができるようになりました。銘建のものは、集成材をつくる過程で発生するプレーナーの屑を固めたものです。ペレットを燃やして出た灰はミネラル豊富な肥料となり、家庭用菜園で使うことができます。
岡山の真庭市にある銘建の工場を訪ねたことがあるのですが、ペレットだけでなく、工場から出る木屑を全部集めてバイオマス発電を行い、巨きな工場のエネルギーをまかなっているだけでなく、売電して1億円もの利益を生んでいるということでした。
これにはびっくりしました。
ペレット工場
エネルギー自給自足工場ね。
銘建工業で製造されたペレットは、真庭バイオエネルギーを通じて販売されています。燃料としてのペレットの他、猫のトイレに使う「猫砂」としても好評だそうです。
薪やペレットは、CO2の排出という点ではどうなのかしら?
薪もペレットも、燃やせばCO2が発生します。しかしそれは、固定化した木による放出なので、やがて腐食する際に発生するCO2を短時間で放出しているに過ぎず、そのCO2は、木が生長するプロセスで吸収したものと合わせるとカウントされずカーボン・ニュートラルです。そんなわけで再生エネルギーの一つとされるのです。
日本には、バイオマス・エネルギーが眠っているといわれますよね?
木質バイオマスの原料となる森林面積は、日本には2500万haもあり、国土の67%を占めています。日本は、世界有数の森林国ですが、問題は木材生産量です。1haあたりの木材生産量はスウェーデンの3分の1、ドイツの4分の1、日本の60年代と比較しても3分の1に落ち込んでいます。しかも、輸入材を含め、国内で燃料として用いられている木材の割合は、木材使用量のわずか0.01%に過ぎません。現に膨大なエネルギーがあるというのに、実にもったいない話です。
北海道では、特に有力な風力発電
風力発電はどうなの?
風力発電は、風がまんべんなく吹き、極端な強風がない地域に合った再生エネルギーです。デンマークのユトランド半島は、大西洋からの風が一年中吹いていて、風力発電の適地です。風車に向かうドンキホーテで知られるスペインも、荒涼とした風景で知られるアイルランドも適地です。しかし、台風による強風のある日本では、よほど強度を保たないと危険が伴います。
日本で風力発電の適地はどこかしら?
本州では、比較的に台風の影響を免れる丹後半島、能登半島、佐渡、男鹿半島を経て、五能線沿いの地域、そこから津軽半島に掛けての地域は、風力発電の大きな可能性を秘めている地域です。
そして北海道は、札幌などの都市部を除くと使える地域が多く、北海道で消費される全エネルギーの40%位まで、風力発電でやれる可能性があります。風力発電は、ロスが生じる送電線で遠くに送るより、できる限り発電した場所に近いところで利用するのがいいのです。北海道には広い大地と、冬の雪や氷、風力という潜在力があります。これを活かせば、農業・産業が発展できる可能性は高いのです。
北海道ニューディールね(笑い)。
この風力発電量は、ドイツやスペインの目標に照らすと不可能な数字ではありません。ただ、固定枠制を敷いている限りはムリだけど。これは太陽光発電にもいえることだけど、補助金を中心とする奨励策で、枠を決めたやり方を採る限り、ほんとうの普及は得られません。ドイツやスペインのように、固定価格制を採用して、発電したものをすべて電力が買うようにすれば、エネルギーを生んだだけ還元されるわけだから投資も呼び込めます。それでこそニューディールになるわけで、電力に気兼ねして、手を縛っておいて補助金行政をやっているのが、この国の実情です。
嘆かわしいわね。
長い目でみれば変わらざるを得なくなるのでしょうが……。
30年前にプリウスはありませんでした。アメリカのビッグ3が、プリウスなどの日本車にここまで食われて、アメリカの自動車産業が滅亡の危機に陥ることを、誰が想像したでしょう。1リッターで30キロも走る自動車が登場し、水素エネルギーによる燃料電池車が現実になると、ガソリンスタンドが街中にあったことが、過去のエピソードとして語られるようになるかも知れません。
話を戻しますが、風力発電は「音公害」がいわれますよね?
デンマークでは、風力発電のある場所から民家のある場所まで、最低80m離しなさいという規制が掛けられています。それでも、結構高い音がします。平野部に都市が発達した日本では、この点、制約を受けることが多いわけですが、たとえば小さな外灯用の風力発電なら、風が少しでも吹いていれば回ってくれますので使えます。太陽電池を併用してバッテリーに蓄電すれば、自立型外灯の電源が確保されます。この外灯は電線を引く必要がなく、それは災害時の電源になり、テレビを映し出すことができます。
阪神淡路大震災のとき、震災の渦中にある人たちが情報が得られず、外の人がテレビにかじりついていましたが、あの時、もしバッテリー付きの外灯があれば違ったわね。
その通りです。外灯の数は、日本には200万基もあります。つまり、用途を考えさえすれば、再生エネルギーは、いろいろなものに使えるわけで、それをインフラ整備することが防災的にも有効だということです。
再生エネルギーに万能を求めないことが大事
でも、風が吹かないと風力発電は使えない、太陽が照らないと太陽熱は使えない、天候に左右されるエネルギーはアテにできない、といわれますよね?
現代技術は、集中型・高効率・万能性をもって旨とします。南極基地にあっても、電気や化石燃料があれば暖かく過ごすことができます。そんな芸当は、再生エネルギーにはできません。あっさり脱帽します。再生エネルギーは、どれも電気や化石燃料に比べると効率が悪く、自然と応答し、自然を解きながら利用を進めざるを得ない性質を持っています。
けれども、利用するエネルギーの適性(向き・不向き)を正確につかみ、用途に合った使い方をするならば、驚くほどの力を秘めているのが再生エネルギーです。
ベストミックスすればいいのよ、ね。
そうです。一つの技術システムで完結させ、それだけで満たそうとするから、難点ばかりに目が行くのです。個々の再生エネルギーの性質を、よく読みとり、特性をつかんで利用すれば、家庭用エネルギーの大半をまかなうことができますし、自立的に太陽光発電も利用できれば、エネルギー自立住宅も可能な時代に入っています。
それなのに、何故、集中型の太陽光発電だけなのか、と。
そこだけしか目が向かないのは、ほんとうに視野狭窄としかいいようがありません。
メインテーマの太陽熱利用は、次回更新にて。
でも、まだ肝心の太陽熱利用の話に入っていませんね。
「びお」は、前置きが長過ぎるといわれるけど、今回は、本論に入らずじまいですかね(笑い)。