おひさまと二十四節気
Vol.3 啓蟄・新たまねぎ
啓蟄、暦便覧には「陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出ればなり」とあって、要するに、暖かくなったので冬籠りしていた虫も穴から出てくる、という頃です。虫とはいっても、昆虫だけを指すわけではなく、むしろ蛇などを指していたんじゃないかなと思います。蛇という漢字に虫の字が入っていることからもわかるように、蛇はかつては虫扱いでしたし、虫という文字自体が、蛇の象形文字だとか。
暖かくなって蛇が穴から出てくる、と言われると、より季節感が出るよなあ、と感じます。
さて、今回の絵は「新たまねぎ」。私の住む静岡県浜松市は、新たまねぎ日本一、なんです。何が日本一かというと、出荷が早い。年が明けた頃(といっても、立春ではなく1月のほう)にはもう出回っています。今の時期も、もちろんたくさん出荷されていて、店頭でも見かけない日はないし、地元の農家さんから頂いたりとかで、私もこのところ毎日のように新たまねぎを食べています。
たまねぎというと、黄たまねぎが一般的ですが、浜松では白たまねぎが多く栽培されています。白たまねぎは、園芸品種ではないので、種は自家採取です。たまねぎとして出荷するものだけでなく、種を採るためにも育てなければなりません。こうした手間がかかるたまねぎが、早く出荷できるのは、産地の多くが海に近い砂地で、水はけがよく地下水位が高い、などの条件もありますが、やっぱりおひさまの力によるものも大きいんでしょうね。
気象庁が作成している「全国気候表2022年」によると、浜松の日照時間は年間2257.5時間。これは、同じ静岡県の御前崎の2294.3時間、和歌山県の潮岬の2265.8時間について3番目に長く、たくさんふりそそぐおひさまが、きっとたまねぎや、色々な作物の生育にも寄与しているんだろうなあ、と感じています。そして、当たり前ですが、農業は、住宅以上に気候に大きく左右されるものです。気温、日射量、降水量、降雪量などなど。たまねぎが育てやすい地域もあれば、米が育てやすい地域もあるわけです。
さて、翻って住まいの話。住まいの断熱基準は、日本を8つの地域に分けて定義されています。そして、それぞれの地域ごと、断熱等級ごとに外皮平均熱貫流率(UA値)が定められています。工務店は、このUA値を追うところが増えていて、住まい手側も、いきなりUA値はどのぐらいか? と訪ねるケースも増えています。
そんなわけで、UA値自体は定着していますが、それがどういう室内環境を目指して定められたのか、ということは、あまり話題になっていないような気がします。
大雑把にいうと、現在の最高等級とされるHEAT20-G3(等級7相当)では、暖房期の最低室温が概ね15℃を下回らない、というのが指標になっています(3〜6地域の場合)。
さて、では室温15℃というのは、どこでも誰でも同じ15℃なんだろうか。
もちろん、温度計が15℃を指せば、それは15℃に他ならないのですが、住まい手は同じように感じるのだろうか?
一緒に勉強会などに参加させていただいている、札幌市立大学の斎藤雅也先生から、「想像温度」について教えてもらったことがあります。
これもすごく大雑把にいってしまうと、想像温度とは、「今、この部屋の室温は何℃ぐらいだろう?」と感じる温度のことで、心理的にも違いが出るし、地域によっても違いが出ます。
15℃という温度をどう感じるかは一律ではない、ということですね。
物事には基準、目安が必要ですから、それはもちろん否定しませんが、その目安が、何を実現するためのものなのか、それに対して自分が何をなすべきなのか、ということがわかっていないと、「基準を満たしたが満足できないもの」が出来上がるんだなあ。気をつけよっ。