びおの珠玉記事
第120回
駅弁は駅で
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2014年04月10日の過去記事より再掲載)
記念日
4月10日は、いろいろな記念日に制定されています。
記念日は語呂合わせが多くて、4月10日は「よいと(良い戸)」で建具の日、「ヨット」でヨットの日、「よと」で良い図書、教科書の日、「しいれ(410)」で仕入れの日、中国語の4(スー)と英語の10(テン)でステンレスボトルの日など、まあわかるようなものから、かなり強引なものまでが軒を連ねています。
さて、今回取り上げる「駅弁の日」も、4月10日とされています。
実は、日本で駅弁が売られた初めての日は7月16日、という説が有力なのですが、7月は弁当も傷みやすいから4月で、と。そして、数字の「4」と、漢数字の「十」を合成すると、「弁」に見えるではないか、ということで定められました。これも他に負けず、強引。
駅弁の発祥
駅弁とは、駅や電車社内で売られている弁当、ということでみなさん認識されているでしょう。決して特別なものではないように思えますが、実は世界的に見るとかなり珍しい例です。ヨーロッパなどでは車両にヴィッフェが用意されていたりして、駅弁が存在するのは日本の他にはアジアの一部ぐらいのようです。
日本で恐らく初であろうという駅弁は、1885(明治18)年の7月16日、大宮-宇都宮に開通した新線の宇都宮駅で販売されました。
いまはこの区間には新幹線も通っていて、30分足らずの道のりで、弁当をゆっくり食べるほどの距離ではありませんが、開通当初は一日2往復、片道三時間半の行程だったといいます。この宇都宮駅で、握り飯2個に沢庵を添えて竹皮で包んだ初の駅弁が売りだされました。
当時の宇都宮は軍都であって、多くの連隊がおかれていました。
駅弁を初めて取り扱った白木屋は、もともと旅館業を営んでいて、兵士を訪ねてくる家族の宿を提供し、また輸送される兵士のための弁当も引き受け、その後太平洋戦争の集結まで軍用弁当を供給しました。
1888(明治21)年には、東海道線の浜松駅で、「自笑亭」が駅弁に参入します。
当初は竹皮包みの弁当からはじめ、いまも営業を続けています。
こちらは「浜の釜めし」。現在価格970円(税込み)。昭和57年発行の「駅弁全線全駅」によると、当時の価格は600円です。
駅弁の値段
この「駅弁全線全駅」では、駅弁の値段が高くなってきている、とコラムで嘆いています。と同時に、まずい駅弁も増えている、と。
昭和30年代は、駅弁の値段と床屋の値段が大体釣り合っていたようです。昭和50年代後半になると、床屋が2400円ぐらいで、駅弁は500〜700円ぐらい。
現在の駅弁はほとんどが1000円弱〜千数百円ほどとなっている一方で、床屋は1000円カットが出現していたりと、また床屋と駅弁の価格は近づいてきているようです。どっちが安くなったのか、どっちが高くなったのでしょうか。
駅以外で売られる駅弁
今や、駅弁は駅以外で売られることが増えています。デパートの催事場やスーパーマーケットで開催され、中には、現在は売られていない復刻版の駅弁があったりと、もうどこが「駅弁」なのかわかりませんが、随分人気があるようで、夕方にのそのそと出かけても○○しか残っていない、という経験が度々ありました。
駅弁は決してコストパフォーマンスがいいとは言えないはずが、各地の名物と聞くと、つい…。
もう駅弁は、その是否はともかく、鉄道の代名詞ではなくて、一つのブランドになっています。「森のいかめし」は、もともとは函館本線の森駅の発祥ですが、今では催事で売られる駅弁の代名詞のようになっています。
高松駅の「アンパンマン弁当」は、買って帰れば子どもに人気(というよりも、買ってこないと怒られるのかな?)なのか、お父さんらしき人が慌てて買い求めているのを見たことがありますが、これも通販で購入することが出来ます。
「そこにしかないもの」が、全国どこでも手に入る、というのは、果たして豊かといえるでしょうか。
鉄道の位置付けはかつてとはずいぶん様変りしました。長距離移動は飛行機というライバルが、近距離は自動車が主役となっていて、地方のローカル路線は赤字が常態化しています。
先頃、東日本大震災で被災した三陸鉄道が全面復旧しましたが、バス輸送で復旧するほうが低コストで済んだ、という意見も出されています。しかし、鉄道が復旧した、という地元の喜びの声は、大きく報道でも取り上げられました。
存続が危ぶまれていた千葉県のいすみ鉄道は、「乗りに来なくてもいい」という、電車としては驚くようなコンセプトを掲げ、逆に人を集めて経営状況を改善しています。
ブルートレインも廃止となり、鉄道は寂れる一方かといえば、JR九州の「ななつ星」のように、高額でありながら予約がずっと先まで埋まっています。一部の鉄道は、輸送手段から、体験・体感の場へと生まれ変わって居場所を見つけています。
駅弁も、そんな体験を構成するパーツの一つではないでしょうか。
だとしたら、やっぱり駅弁は駅で買って食うべし!
駅弁全線全駅(主婦と生活社)
駅弁マニア(瓜生忠夫著/報知新聞社)