まちの中の建築スケッチ
第69回
塔の家
——都会の住宅——
外苑西通りを青山から千駄ヶ谷へ向かう右手に、大きなビルに囲まれて「塔の家」は建っている。東孝光(1933-2015)の自邸として半世紀前に建てられた。並木道にはおしゃれな店も並んでいるが、オフィスビルやマンションもコンパクトな感じで、舗道も気持ちよく歩ける。
眺めると、住宅というよりは確かにコンクリートの塔という感じであり、周辺のビルに囲まれている中で、小さくとも存在感を見せている。コンクリートの打ち放しも味のある表情を見せてくれる。近年の堅そうで滑らかな打ち放しとは程遠く、型枠板の目地に加え、セパ穴やコンクリートの打ち継ぎなどの模様が不規則に壁面に現れて、かつてのコンクリートの表面とはこういうものであったと思わせる。時間の経過が歴史的存在になって景観を形成している。
1階は駐車スペースになって表通りから裏通りへ抜けている。横にはプランターがいくつか置いてあり、人の形をした白い板が一緒に立っている。しかも、これは、近隣何軒かにも、同じようなプランターと人形があるので、どのような意図かはわからないが、通行人へのストリート・ファーニチャの設えなのだろう。
「建築構造パースペクティブ」(日本建築学会1994年)でも取り上げた。コンピュータ・グラフィックで壁式構造をどうやって魅力的に扱えるか気になったのではあるが、室内の様子もそれなりに、うまく表現してもらっている。設計者からも構造のことを語りつつ、内部空間の構成をわかりやすく表現していると評価していただいた。
都心の20㎡の土地に住むことを挑戦した住宅である。建築家の中には、自邸を設計してもほとんど住んでいなかったりもすることを思うと、よくぞ縦型の住まいとして解答を示したことに建築のおもしろさを感じる。何よりも、この家で育った子どもが建築家(東利恵)になったということが、住宅としての価値を見るし、住宅とは何かを考えさせる。
今や、都会の住宅地では、敷地が細分化され、木造3階建てが標準解のようなことになってしまった。子育てだって、高齢者にとっても、20㎡3層くらいでも、上下の頻繁な動きはけっこう大変だろうと想像されるのであるが、塔の家のように12㎡の5層が、現実に可能であるということを実証したのだから、建築家はすごい。
ただ、塔の家の場合は、決して一般解にはならない。それがまた建築の魅力である。