まちの中の建築スケッチ

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住田町役場庁舎
——木の庁舎建築——

林業日本一を目指す、岩手県の住田町が、2014年に建てた庁舎である。地理的には、遠野、大船渡、陸前高田の三角形のほぼ中央に位置することもあり、震災復興で釜石に入るようになってなんども近くを通っており、ずっと気になっていた建物である。住田町は、海に面していないので直接の津波被害はなかったのだと思うが、これも震災復興プロジェクトの意味合いをもっていたようだ。
毎年、夏は2-3週間にわたり、釜石市唐丹に滞在しているのだが、今回、思い立って出かけることにした。唐丹からは、大船渡まで三陸道を走り、そこから内陸に向けて国道107号線を20㎞。お盆に入ってから、台風7号の余波もあって、毎日のように雨が続いている。それでも雨雲レーダ予報を見て、雲が切れるようであり、小雨の中を出かけた。約40分で到着した。
国道横には、開田記念碑が建っており、住田町に人が住み始めたところと理解する。レンズ型の張弦梁の屋根が目立つ。お盆ではあるが、平日で役所は開いている。近代的なすっきりした構成であるが、木の勢いを示す空間である。
1955年頃のピークの人口13,000人が、今は4,600人で、人口減は庁舎完成時からも止まらない。山間部にあって林業が、苗木生産から林産、加工までの町として、持続可能社会の新しい方向を目指している。その象徴的な建築として、地元産の杉250㎥、落葉松460㎥を使って、前田建設工業他、多くの設計者、施工者の協働体制のデザイン・ビルド方式で完成した、2900㎡の庁舎である。
建築構造の耐震要素としては、斜めのラチス格子が各方向の壁面に全面的に組み込まれ、外観からも、見られる構成になっている。屋根を架ける張弦梁は、21.8mのスパンに、3.6mの軒を作り、開放的な事務所空間を生んでいる。全体がシンプルな構造であるが、木がさまざまな形で組まれていることもあり、眺めていても楽しい。
国道側から雨の来る前にと、急ぎスケッチをした。日が射すと蒸し暑い。低い山並みを背景に、雲もときおり山の背を隠す。本庁舎の左奥には、消防署が見え、その奥の運動公園の照明塔が何本かそびえている。スケッチを終えるとすぐに雨が降って来た。雨雲レーダの精度も大したものだ。
わが国の木材自給率の推移をみると、1960年代くらいまでは90%超であったのが、2000年頃には、18%くらいまで低下し、最近ようやく40%程度まで回復してきている。農水省も国交省も、国産木材の需要が確保されるよう、それなりの施策を打っているが、なかなか生産者が報われる形にならないのは、農業、漁業と同様である。単に生産性や効率重視だけでなく、自然と共に生活することが、経済的にもうまく展開するための工夫がまだまだ必要なのであろう。
住田町の日本一の林業を目指す取り組みは、「地域創生への挑戦~住み続ける地域づくりの処方箋~」(公人の友社刊、2015年)でも、鈴木久子氏により紹介されている。林業に勝ち目があるかないかではなく、日本の最大の資源としての山の木のためにやらなくてはいけない取り組みである。日本社会全体の持続可能性につながることを期待したい。