まちの中の建築スケッチ

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東京都庭園美術館
——都心の中の憩いの建物——

東京都庭園美術館
東京都庭園美術館は、もとは朝香宮邸として建てられたものが、戦後は一時、白金迎賓館として使われ、1983年10月1日に東京都庭園美術館として一般公開されるようになったという。10年ほど前には新館が増設され、リニューアルされた話も聞いていた。隣の自然教育園には、やはり10年近く前になるか、車椅子の母を連れて散歩に訪れたが、庭園美術館は見ていなかった。

敷地は、自然教育園の一画が、切り取られた形になっていて、まさに緑の庭園の中の館である。現在は、開館40周年記念の「装飾の庭」展が開催されていて、美術館に入るには1400円(65歳以上700円)の入場料を取られる。庭園のみの場合は200円(65歳以上100円)。自然教育園の方は国立科学博物館付属施設ということで、入場料320円(65歳以上無料)となっている。自然教育園入口の庭園美術館と反対側は、芝生広場を囲む、団栗のなる大木が何本もある白金台どんぐり児童遊園という港区の公園になっていて、無料である。

いきなり、細かいお金の話で恐縮であるが、最近、建築家の木村浩之氏より「FREE 無料都市/自由時間」というサントリー文化財団の助成研究の話を聴いたことから、都市内の公共空間が無料かどうか、が気になったということである。ちゃんと管理されなければ維持できないので、受益者負担と言えば理屈は通るから、有料が当たり前と言えなくもない。国と都と区と、それぞれのポリシーがあってそうしているということなのだろうか。日比谷公園は無料であるが、新宿御苑は有料である。

公共のスペースや緑をどのように保全するのかを都市計画的に考えたら、市民が暮しの一部として、無料で自由に、気楽に過ごせる場として整備することに、税金を使ってよいように思うし、200円が無料になったからと言って、都の財政に影響の出るほどのものではなかろうと思う。それが自然と共生するということでもある。

入口で入園料を払って、道を少し進むと庭園美術館が現れる。100年前に建った洋館で、すっきりとしたモダンな建築である。建物外観としてはドイツのバウハウスのようでもある。高輪消防署二本榎出張所に似た印象も覚える。関東大地震で高輪の住まいが被災したことにより、朝香宮邸の建造が必要となった折に、ご夫妻(允子(のぶこ)内親王が明治天皇の第8皇女)がしばし滞在することになったパリで出会ったアール・デコの博覧会が、建物の設計に大きく影響したと伝えられる。

内部を見学することが出来て良かった。壁紙、家具、照明、床、どれをとっても、それぞれの部屋が手造りの工芸を施したインテリアになっている。朝香宮ご夫妻がパリで感銘を受けたアンリ・ラパン(1873-1939)やルネ・ラリック(1860-1945)といった、アール・デコの巨匠の作品群ということだ。それぞれの部屋の庭との関係も変化があって、住まいとしての心地よさも想像できた。残念ながら允子内親王は、館の完成後、半年で世を去られたという。

美術館というよりは工芸館かもしれないが、庭園美術館という名前は、貴族の邸宅が公共の空間として活用されるということから悪くない。機能を補う形で増設された新館に用意されたレストランの、屋外テーブルでスマホのQRコードで注文して、庭園の初冬の日差しの中のランチを楽しむこともできた。