まちの中の建築スケッチ

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ホキ美術館
——住宅街でのアクセント——

ホキ美術館
千葉県のほぼ真ん中に、1980年代に生まれた民間の土地開発によるニュータウン「あすみが丘」がある。その住宅街と千葉市昭和の森の公園の境に、近代建築の細長い箱が、2010年にホキ美術館として誕生した。住宅街の側からは、100mほどの凸面の壁になっているが、緩やかなふくらみがあり、住宅にしてはやや階高の高い1階という程度で圧迫感はなく、裏手には森を控えて、まちのアクセントになっている。

2つの孤の筒を凸レンズ状にした平面をしており、内部は地上1階地下2階の回廊式の展示空間になっている。保木将夫(1931~)による、写実絵画作品コレクションのための美術館として建てられた。地上部分の箱は30mもの片持ち梁で、迫力がある。

保木氏は、自宅で現代日本の写実画のコレクションを始めたものの、納まりきらなくなって、このような美術館を建てて公開することになったという。企画展としては、画家たちによる代表作を競うという形で、毎年開催されてきた。現在は、第5回「私の代表作展」が開催中であった。風景画、静物画、人物など、題材もありふれてはいるが、落ち着いて楽しめた。まるで写真と思わせる作品も少なくない。

建物の設計は日建設計の山梨知彦(1960~)で、構造設計は同じく向野聡彦(1957~)による。森側の地中に半分潜った筒は、鉄筋コンクリート製、住宅側の少し浮遊した筒は鉄骨製で、しかも、完全に閉じておらず、先端は腰部分が少し空いている。飛び出た側から見ると迫力をもって迫ってくる感じであるし、横から見ると、気持ちよく空に浮いて、住宅街の方向に飛び出している感じである。

建築で、大きく跳ねだした空間を作るのは、斜面では自然な成り行きである。昔から先端の開放性が、それだけで新鮮さをもたらす。フランク・ロイド・ライトの落水荘は川の上に居間とデッキが張り出している。近年のいくつかの美術館でも跳ねだした空間の例は少なくない。美術館は、作品を気持ちよく味わえることが大切なので、あまり建築が主張しすぎるのは好きではない。しかし、この筒状の配置は作品を一つずつ見て回るのに、自然であり、一見奇抜に見えて、意味のある落ち着いた100mの空間であり、浮遊であると感じられた。斜面と言っても極めて緩やかであり、したがって、30m跳ね出しても、少し持ち上がったという程度の感覚になるからかもしれない。

鉄筋コンクリートの跳ね出しは、クリープ作用によって年とともに変形が増大したりするので、注意が必要である。落水荘では、大がかりな補修工事がされたりしたが、鉄板で組み立てるのであれば、安心である。接合部にボルトが現れたりしては、美しくないので、溶接で組み立てることになるのも当然だろう。そうなると、溶接の歪や残留応力なども気になるのであるが、丁寧な設計がなされたようである。筒の先端の鉄板の面も薄く、すっきりと納まっていて気持ちよい。

昭和の森という豊かな緑に接したニュータウンに、このような文化の香り高い空間のアクセントがプレゼントされたのは、まちとして羨ましい限りである。現代の技術が形となってまちを心地よい空間にすることが出来た好例と言って良いかもしれない。