おひさまと二十四節気

Vol.23  小寒・鏡開き

善哉よきかな

ぜんざいの語源は「よきかな」だそうな。あんこ好きとしては大いに共感します。
(画・祖父江ヒロコ)


「小寒」とは、本格的な寒気の最大はこれからという時期ですが、「小寒の氷、大寒に解く」という故事があるように、実際には寒さが厳しい時もある頃です。

小寒の初候「芹乃栄(せりすなわちさかう)」の「せり」は、七草粥の具の一つ。日本で七草粥を正月七日に食べる風習は、平安初期の宮中で始まったといわれていますが、実際には、中国にあった七種の菜で(あつもの)(吸い物)をつくって食べると万病にならないという伝承・風習を真似たものでした。「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ、これぞ七草(春の七草)」は、今も私たちがよく口ずさむ歌ですが、5番目のホトケノザについては、和名のホトケノザがシソ科の植物で食用には向かないことから、どの植物にあたるのかがよく問題となります。現在、妥当であると言われているのは、キク科のタビラコ(コオニタビラコ)」とする牧野説です。そしてこの牧野こそ、昨年、NHK朝の連続テレビ小説の主人公にもなった、日本の植物学の父・牧野富太郎です。

牧野富太郎は、1862年5月にこの世に生を受け、1957年1月に天国に旅立つ94年の間に、約40万枚の標本を収集し、1500種以上の新種や新品種などの植物に命名。日本植物分類学の基礎を築き、日本の植物学に貢献しました。富太郎は、こう語ります。『人の一生で、自然と親しむということほど有益なことはありません。人間はもともと自然の一員なのですから、自然にとけこんでこそ、はじめて生きている喜びを感ずることができるのだと思います』(『牧野富太郎植物記』(中村浩著・あかね書房)より)と。まさに草木とともに生き、草木にその一生をささげた人でした。

さて、この初候を過ぎると、次候は「水泉動(みずあたたかをふくむ)」となります。「水泉」とは湧きいでる泉をいいますが、まるで耳元に、“季節は動いているんだよ” “地中では凍った泉が解けて動き始めているんだよ”という小さな囁きが聞こえてくるような言葉です。冬枯れの凍った土も、生命の躍動を感じるものがなくても、土の下では春が用意されているというこの先読みに、七十二候のなんともいえぬ面白さを感じます。

そして迎える末候は「雉始雊(きじはじめてなく)」、雄のキジが雌を求めて鳴き始める時節をいいます。繁殖期の雄は「ケケケーン」と啼いた後、「ドドドドッ」と羽を打ち付ける“ほろ打ち“を繰り返し、縄張りを宣言。自身を大きく見せ、遠くの雌たちにアピールをします。実はキジは、飛ぶよりも歩く(走る)方が得意な鳥で、その速さはなんと時速32kmといいますから、かなりのもの。ということは……桃から生まれた桃太郎は、イヌ・サル・キジを家来に引き連れ鬼ヶ島まで鬼を退治に行きましたが、鬼の目をつつきまわしたというキジは、意外にも地上戦でも活躍するすばしっこさで勝利に大貢献。あとでこっそり桃太郎から、追加の褒賞にあずかっていた⁈かも(笑)。1947年、キジは日本鳥学会より、日本の国鳥に指定されました。

*2024年1月1日に能登地方を震源として発生しました地震・津波(石川県能登半島地震)により、犠牲となられました方々に謹んでお悔みを申し上げますとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復旧・復興をお祈りいたしております。