びおの珠玉記事
第178回
蚊に刺されると、人は殺人鬼に変わる。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年06月27日の過去記事より再掲載)
蚊とはどんな虫?
蚊の仲間(双翅目・カ科)は世界で3000種あまり。
日本にはおよそ100種類の蚊がいて、そのうち3割程度が血を吸う種類といわれています。
幼虫はボウフラと呼ばれ、水の中で生息します。2〜3日で羽化した成虫のうち、交尾をした後の雌だけが血を吸います。雄や、交尾前の雌は植物の汁を吸いますが、吸血はしません。
そんなわけで、血を吸わない蚊も多いのですが、一部の心ない(?)蚊のせいで、蚊は嫌われ者になってしまっているのです。
蚊と人のくらし
新石器時代には蚊が媒介するマラリアに悩まされていたという調査もありますし、日本書紀にも蚊帳についての記載があること等から、古来から人は蚊に悩まされていたことがわかります。
多くの蚊は15度以上で吸血をはじめ、25〜30度でより活発になるといわれています。
以前は冬場にみかけることはなかったのですが、最近は温暖化の影響か、「チカイエカ」のように、冬でも活動する蚊も出てきました。
チカイエカは都市部で増えており、浄化槽や雨水マスなど、人工的な水場に発生し、冬場も血を吸います。人の生活様式の変化にあわせて増えてきた蚊です。
チカイエカのような例は、人間によって生物の生息環境が乱された結果とも言えます。
蚊が嫌われる訳その1 音
蚊の羽音は、ずいぶん耳障りなものですね。耳元に近づいて来て、また飛び去っていくあの音は、どうにも慣れることがありません。
あの羽音の正体は、一秒間に500〜1000回という羽ばたきからくる高周波音です。
この羽音に似た高周波数の「モスキート音」を使った商品があります。
高周波数の音は、年齢とともに聞こえにくくなります。これを利用して、若年層にだけ聞こえる耳障りな音を発生させて、たむろする若者を排除したりすることが出来る、という触れ込みです。
年配の人にはまったく聞こえないのに、若者には不快音が聞こえ、深夜の公園や店頭、駐車場から追い出そう、という仕組みです。
果たして効果があるのかどうか。東京都足立区では、自治体として始めて、この5月から公園に設置して若者がたむろするのを防ぐ取り組みをはじめています。
実際にコンビニなどの店頭に設置して、若者がたむろするのを防いでいる例もあるそうです。
http://www.mosquito-jp.com/
上記実験サイトで試してみると、私サヅカ(30代後半)はMacbookProの内蔵スピーカーで17,000Hzが辛うじて聞こえましたが、それ以上は聞こえませんでした。
10代の娘は19,000Hzまで聞こえるそうです。
…ってことは、若者が逃げて、オヤジがコンビニにたむろするようになる…わけないか。
しかし、排除される側にしてみると、音も不快でしょうが、そんな発想で人を追い出すというところが、なんともスゴいですね。
蚊が嫌われる理由その2 かゆみ
蚊に刺されるとかゆいのは、吸血時に注入される蚊の唾液の影響です。
蚊の唾液には、刺したことを気づかれにくくする麻酔効果や、血を固まりにくくする効果などをもつ酵素が含まれています。
この酵素に対して、さされた人は抗体をつくります。かゆさや腫れは、抗体が反応したためにおこる、アレルギーの一種です。
ですから、生まれてはじめて蚊にさされたときには、抗体がありませんので、腫れもせず、かゆみはおこりません。
一回刺されるとと抗体が出来、それ以降はかゆみや腫れがおこります。
あまりにもたくさん刺され続けると、特殊な抗体によって、なんのかゆみも痛みも起こらなくなることがあります
じゃあ、刺され続けていれば蚊なんかへっちゃらじゃないか! よし、今日からどんどん刺されよう! …というのは、早合点です。
間があくと、抗体価が低下して、またかゆみが起こるようになってしまうのです。
それに、蚊に刺されると、かゆみよりもっと怖いことが起こる可能性があります。
蚊が嫌われる理由その3 伝染病
最も恐れるべきことは、マラリアや西ナイル熱、日本脳炎などの伝染病の媒介をすることです。
人は、新石器時代にはもうマラリアに悩まされていたとされています。アレキサンダー大王もマラリアにかかり東方進出を諦めることになり、平清盛も源氏との争いの中、マラリアで没したといわれています。
日本国内だけで過ごしていると、蚊による伝染病などは根絶されたかのように錯覚しがちです。
しかし、現在でも東南アジアを中心に日本脳炎の患者は毎年5万人以上が発生しています。
日本でも、以前から行われていた日本脳炎のワクチン接種と急性散在性脳脊髄炎の因果関係が指摘され、2005年に厚労省から旧来のワクチンの差し控え勧告が出されました。この後、新型のワクチンが今年5月に認可され、6月から接種が開始されましたが、この予防接種は任意であり、量にも限りがあるため、抗体を持たない子どもが増えるという説もあります。
新型インフルエンザの報道過熱と行政・医療機関の対応、マスクがバカ売れした経緯などを見ると、蚊が媒介する伝染病が流行したときの、過剰なまでの蚊の駆除や、防護服なども売れるのではないかと思ってしまいます。ことに日本の医療機関は伝染病に対する理解や対応が遅れていることが指摘されており、ひとたびそうした事態がおこると、パニックにもなるかもしれません。
蚊に刺されると、人は殺人鬼にかわる
嫌な羽音とともに飛んで来て、チクリ。そのあとにはかゆみが襲ってくる…こんな経験は誰もがしたくありません。蚊に刺されると、人は殺人鬼のように、蚊を殺そうと試みます。
手でパチリ、というのは最も身近な防衛方法ですが、他にも、人は蚊を避けるためにさまざまな努力をしてきました。
蚊遣り火
古くは、ヨモギやカヤ、マツなどを火にくべた煙で蚊を追い払う「蚊遣り火」という手法が取られていました。これは殺虫というより煙で追い払う方法です。蚊取り線香などが生まれ、ほとんど行われることがなくなりました。
蚊取り線香
除虫菊に含まれる殺虫成分(天然ピレトリン)を線香に練り込んだ「蚊取り線香」が生まれたのは、1890年のことです。
現在売られているものは、ピレスロイド系の殺虫剤を含んだものが多くなりましたが、天然ピレトリンによる防虫線香も売られています。
電気蚊取り器へ
1963年にマット式の電気蚊取り器が発売されました。今では液体式の電気蚊取り器が主流になっています。
ピレスロイド系の殺虫剤を使ったものがほとんどです。安全性は高いとされる一方、シックハウスの原因になる説や、環境ホルモンであるという説もあり、過剰使用は避けたいものです。気密の進んだ住宅で無香料の電気蚊取りを使う場合は、その濃度などにも気がつかない可能性がありますから、換気には気をつけましょう。
虫除けスプレー
市販の虫除けスプレーのほとんどは、アメリカ陸軍で開発されたディートを使用しています。メーカーは、ディートは安全性が高いと宣伝していますが、使用上の注意には、回数の制限や慢性使用を避けるように、という記載があります。
農薬・殺虫剤の類は、すべて回数や濃度が安全性と関わりを持つのですが、一般消費者が簡単に購入出来る以上、回数や濃度のコントロールは事実上出来ないといってよく、そういう意味では非常に危険なものが販売されているという認識を持っておいた方がよいでしょう。
メダカや金魚
池や鉢等は、蚊の幼虫・ボウフラの生息地帯です。庭の鉢や池などには、金魚やメダカを飼っておくことで、ボウフラをてきめんに退治してくれます。ただし、ボウフラは放置された古タイヤの中の水や、竹の切り株に溜まる水等、ちょっとしたところにも発生します。身の回りにこういう水がないかをチェックしましょう。
また、生物による駆除ならなんでもよいかというと、必ずしもそんなことはありません。かつて日本に生息していなかったカダヤシ(蚊絶やし・別名タップミノー)がボウフラ駆除のために持ち込まれ、メダカの生息域を奪っていったとする説もあります。近所の川にはメダカがいるよ、なんて思っていると、実はカダヤシだった、ということは、結構多いのです。
蚊帳と網戸
蚊帳は日本書紀に記述があるように、古くから利用されてきました。
日本の住宅は、かつては「開けっぴろげ」で、ガラス窓などありませんでしたから、蚊はいくらでも入ってきます。そのため、寝床等を局部的に覆う蚊帳が普及しました。昭和30年代になると、アルミサッシの普及とともに現在のような網戸が生まれ、次第に蚊帳にとってかわるようになります。
蚊帳と網戸は、網で蚊を防ぐことに違いはありませんが、網戸は「一切ウチには入らないで!」という縄張り的な防衛方法であることに対して、蚊帳は「寝る時ぐらいは安心させてよ」という、よりおおらかな方法です。この辺は、住宅様式の変化にともなう防犯意識の変化などとも関係がありそうで、興味深いところです。