まちの中の建築スケッチ

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気仙沼ピア7
——港の再開発——

気仙沼ピア7

交通の接点には、人が集まるので、必然的に広場が必要になるし、それを囲む建築も生まれる。気仙沼のインナー・ハーバーが、気持ちよい空間になっている。夏の時期は、釜石市唐丹町に滞在していることが多いが、唐丹から車で、三陸道を南に約1時間。大船渡、陸前高田の次が宮城県となり気仙沼である。東日本震災で被災した港の施設が、観光と地場産業育成施設として、「気仙沼まち・ひと・しごとプラザ」に生まれ変わった。隣接して、カフェの建物もあり、また、FMのラジオ気仙沼のサテライト・スタジオもある。岸壁からは、定員300名の大きな遊覧船が就航している。

かつて筆者が1989年にボルティモアに滞在したときは、インナー・ハーバーが再開発された賑わいの場所で、休みのときにはよく訪れたものだったが、それを思い出した。規模は、はるかに小さいが、ふらっと訪れても気持ちよく過ごすことができる場所になっている。海はその要素の一つで、広場に適度な広さが必要だし、落ち着ける飲食コーナーも欠かせない。

この場所は、古いまちなみとも接続していて、かつ山が近くに迫っており、三陸特有の景観にもなっている。高層建築が目に入らないのも山の景観が生きる。スケッチした正面の建物は、創業100年の男山酒造の本店建物で、津波で大きく被災したものの、登録有形文化財で保存運動団体の協力もあって、2020年に復活したという。左手前が、「まち・ひと・しごとプラザ」の建物で、Pier7と壁面に描かれている。隣接してデッキで繋がっているのが、波が連続する形の屋根を持つカフェの入った建物である。デッキの椅子に座り注文した、冷たいマンゴースムージーはボリュームたっぷりで、潮風を感じながら味わえた。

震災復興ということで、三陸の海岸のまちには、それぞれの施設が再開発されているが、ここでは頑張りすぎずに港を囲うように自然な形の建築になっている。このようなところで、若者が集まり、賑わいが生まれることを期待したい。外からの観光と言う前に、近くの住民が気持ちよく居られる場所づくりに意味がある。定員300人の遊覧船が1日に5便も出るほどに人が集まるというのは、少し難しいかもしれないが、漁業を放り出すことなく、漁業だけに頼るのでない、港まちの活性化は、こんなお手本が参考になるように感じられた。

著者について

神田順

神田順かんだじゅん
1947年岐阜県生まれ。東京大学建築学科大学院修士修了。エディンバラ大学PhD取得。竹中工務店にて構造設計の実務経験の後、1980年より東京大学工学部助教授のち教授。1999年より新領域創成科学研究科社会文化環境学教授。2012年より日本大学理工学部建築学科教授。著書に『安全な建物とは何か』(技術評論社)、『建築構造計画概論』(共立出版)など。