びおの珠玉記事
第181回
スルメイカの手軽な楽しみ方、一夜干し
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2009年08月23日の過去記事より再掲載)
日本人はイカが大好きです。
国別のイカの消費量ランキングでは、日本がダントツの1位。世界で獲れるイカの4割以上が日本で食べられているそうです。
また、日本国内に目を向けても、日本人1人当たりの魚介類の消費量を種類別に見ると、第1位はイカ。
やはり日本人はイカが大好きなようです。
そしてイカの中でも、日本で最も親しまれているイカが、スルメイカ。イカの中で最も多く漁獲され、消費されています。国民的な食材だと言えるでしょう。
そんなスルメイカを、今、店頭でよく見かけます。価格もお手頃。
今回はスルメイカの手軽な楽しみ方として、「一夜干し」をご紹介します。
スルメイカについて
イカは古来から、日本人にとって馴染みの深い、身近な存在でした。
「イカ」の名は、すでに『出雲風土記』(733年)に見えるといいます。
するめは古代からイカの保存法の最たるものでした。平安時代に編纂された『延喜式』(927年)に朝廷への献上物として鰒(あわび)、鮭と並んで烏賊が記されています。この場合はいずれも乾物で、烏賊はするめであろうと考えられています。
するめは縁起物とされ、現在でも祭儀に用いられています。結納の際に相手方に納める品として代表的なもので、この場合「寿留女」の字を当てます。お正月飾りにも使われますし、大相撲の土俵の下には、勝ち栗・洗米・昆布・塩・カヤの実とともに鎮物として埋められているそうです。
イカは世界中の温帯から熱帯域に分布しており、およそ30科460種ほどが生息しています。大別すると、コウイカ類・ツツイカ類の2つに分けられます。
スルメイカはツツイカ目アカイカ科。「スルメイカ」の他に、まついか(関西)、とんきゅう(九州)、まいか(東北・北海道)、がんぜき、むぎいか、あかいか、などとも呼ばれます。
「スルメイカ」の語源を見てみると、墨を吐き群れをなすことを意味する「スミムレ(墨群れ)」から「スミメ」を経て「スルメ」に転じた、と言われています。また、するめの多くがこの種類のイカで作られるからだとも言われます。
ちなみに、イカの足を「ゲソ」と呼びますが、これは「下足」を略したものだそうです。イカの足は10本です。昔、大勢の人が集まり履き物(下足)がたくさん脱ぎ捨てられた時、これを整理するのに10足ずつまとめたことから、このように呼ばれるようになったそうです。
スルメイカの旬は?
さて、スルメイカの旬はいつか?というと、これがなかなか難しいようです。
数冊の本を見てみたところ、スルメイカの旬について、次のように記載されていました。
本2:冬(9〜2月)。
本3:秋から冬。
本4:秋から冬。
本5:スルメイカについては特に旬の時期の記載なし。イカ:夏のページに掲載。
以上のような状況でした。秋、冬、夏とかなり幅があります。
この他、いくつかのサイトを見てみたところ、スルメイカの旬を「夏」、「夏から秋にかけて」、「春から晩秋」等としているサイトがありました。
そして、夏である今、実際に店頭で「生・刺身用」のスルメイカをよく見かけます。
一体、スルメイカの旬はいつなのでしょうか?
これには、実はスルメイカの生態が関わっています。
日本近海のスルメイカは北海道から九州まで広く生息していて、冬生まれ群・秋生まれ群・夏生まれ群の3つのグループがあります。そのうちの冬生まれ群と秋生まれ群が主な漁獲の対象になります。
スルメイカは回遊性です。
「秋生まれ群」は9〜11月に九州西岸から日本海西部沿岸で生まれ、対馬暖流にのって日本海を北上して、7月には日本海全域に広がります。日本海での漁獲の大部分はこの秋生まれ群です。
「冬生まれ群」は12〜3月に九州南西岸から東シナ海の海域で生まれ、太平洋の黒潮と日本海の対馬暖流にのって、5〜8月に北海道海域まで移動します。太平洋側での漁獲の多くはこの冬生まれ群です。
(この他、4月から8月にかけて、日本海本州沿岸から九州沿岸までと、伊豆半島周辺海域で生まれる「夏生まれ群」もありますが、資源量は比較的小さいです。)
北上するとき、伊豆あたりの岸辺に寄った小さな若いイカは釣り人たちに「ムギイカ(麦いか)」と呼ばれます。また、三陸では「夏イカ」漁が行われます。
このようにだんだんと成長しながら北上し、餌の豊富な寒流域、寒流と暖流の混じるところまで行きます。そして冷たい親潮の中でたっぷり餌を食べて、性成熟しながら南下回遊に入ります。産卵場へ向かうのです。
この南下の際、今度は「下りイカ」の漁が行われます。
このように、スルメイカは1年の生涯のうちに、日本列島を南北に往復回遊するのです。
このような生態から、スルメイカは季節を限定されず長い期間にわたって漁獲されますし、回遊経路に当たる各海域で漁場が形成され、漁場によって漁獲の時期が異なるわけです。
スルメイカの旬の時期を限定するのが難しいのには、このような事情があります。
先に見た数冊の本で、秋・冬を旬とするものが多いのは、南下するスルメイカ、餌をたくさん食べて成熟した産卵前のスルメイカが多く漁獲される時期だからなのではないか、と推測します。
お手頃なスルメイカを手軽に楽しもう
そんなスルメイカを、今、店頭でよく見かけます。
静岡県浜松市のあるお店では、生で食べられるスルメイカが<1杯 180円>で売られていました。別のお店では、「天然・生・刺身用、青森産」のスルメイカが<3杯 330円>、<4杯 398円(特売品)>で売られていました。また別のお店では、「生食可」の表示はありませんでしたが<1杯 100円>でした。
なかなかお手頃な価格で、うれしい限りです。
今回は、そんなお手頃なスルメイカの手軽な楽しみ方として、「一夜干し」をご紹介します。
イカを開くのは、魚を開くよりも簡単。
そして少しの手間を加えることで、イカの旨みをぐっと引き出せます。
市販されているものには食品添加物が入っていることも多いですが、自分で作れば、一切なし。
手作りのスルメイカ一夜干し、おすすめです。
スルメイカの一夜干しを作ってみよう!
スルメイカの一夜干しに、実際に挑戦してみました。
スルメイカは、生で食べられる、新鮮なものを手に入れます。
胴の赤褐色が鮮やかで全体にツヤと透明感があり、身に張りと弾力があるものを選びましょう。目が黒く盛り上がり、吸盤に吸着力があるものが新鮮です。獲れたてのものは、腹を指で押すと褐色の斑点が赤くなったり白くなったりするそうです。
イカは鮮度の差が味にはっきりと出る、と言われます。
では、調理開始。
まずは、イカを開きます。
(1)エンペラ(一番上の三角形の部分)を下にして置きます。
胴の部分の真ん中に縦に包丁を入れ、切り開きます。この時、内臓を傷つけないように注意します。
(2)内臓が入った袋をつぶさないように、また、足の部分が胴から離れないように気をつけながら、内臓を取り外します。
内臓は胴の部分にくっついていますが、イカの上の方(エンペラの方)から、内臓をはがしていきます。
取り外した内臓は、少しの塩や酒を加えてホイル焼きにしたり、墨をつぶさないように取り除いて塩辛にしてもいいですね。
胴の中心に骨がありますが、骨はつけておいた方が形がくずれにくいので、そのままにしておきます。(焼いて食べる時に取り外します。)
(3)足の部分も、真ん中に包丁を入れ、切り開きます。
これを忘れてしまうと、干した時に足の部分だけ乾きにくくなってしまうので、忘れずに切り開いておきます。
(4)目とくちばし、また、足についている吸盤を取り除きます。
くちばしは、焼いて食べられますし、塩辛に入れてもよいでしょう。
(5)イカをさっと洗い、30分〜1時間くらい塩水につけます。
塩水は、海水と同じくらいの濃度(3%程度)にします。3%の塩水は、例えば800ccの水に対して、24gの塩で作れます。
塩を多くすると、塩味が強くなります。各自の好みで調節します。
塩水につけることで、イカの肉から水分が出て、ギュッとしまります。
(6)塩水から引き上げ、キッチンペーパーなどで水気を拭き取ります。
(7)風通しのよい場所に干します。
今の季節ですと、日向では暑すぎますので、日陰に干すとよいでしょう。あるいは「一夜干し」の名前のとおり、夕方から一晩干してもよいでしょう。
干す時間は、日中なら半日〜1日が目安ですが、イカの様子を見て決めましょう。触ってみて、表面が濡れていないくらい、ほんのり湿気が残っている程度になれば干し上がりです。
ちなみに、完全に乾くまで干すと、スルメになります。
スルメを作るのは、寒い時期がおすすめです。
また、干すための、こんな道具もありますので、ご紹介します。
こちらのイカは、丸まらないように、竹串を刺して干しています。
もし大きなザルや特別な道具がなくても、干せます!
例えば……洗濯用の桶を台にして、ガスコンロについている魚の焼き網を使って、干してみました。
(干した後、そのままガスコンロに入れてあぶったので、楽でした。)
(8)干し上がったイカを、両面を軽くあぶって食べます。
焼きすぎると硬くなってしまうので、気をつけます。
ふっくらとやわらかく、噛むとイカの身に歯が食い込むのが分かります。プリプリとした食感。噛むごとに旨みが広がって、美味しい!
塩味がついていますのでそのまま食べてもいいですし、お好みで、マヨネーズ・醤油とマヨネーズ・マヨネーズと七味唐辛子・生姜醤油、なども美味しいです。
お酒が好きな方には、おつまみとしてもぴったりです。
さまざまな料理を楽しめるスルメイカ
イカは、鮮度がよければ刺身、すしだね、そのほか天ぷら、煮つけ、焼き物、和え物、蒸し物、フライ、さらには一夜干し、するめ、塩辛など、実にいろいろな方法で調理することができます。
料理の和・洋・中も問いません。
とても重宝な食材です。それも人気の秘密かもしれません。しかも価格も安いので、うれしい限りです。
一夜干しの他にも、スルメイカを使ったいろいろなレシピを見つけましたので、ご紹介します。
和・洋・中それぞれ探してみました。どれも美味しそう!なお料理ばかりです。
http://majyoi-kichen.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_c0f9.html
イカの中にもち米がパンパンに詰まっています。椎茸と竹の子も入っています。娘さんにも好評とのこと。
■godmotherの料理レシピ日記/烏賊(いか)リングフライ:油がはじけない方法と言及できるのか?
http://godmothers.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_bac5.html
とてもポピュラーなリングフライですが、ひと工夫でこの日は油がはじけなかったそうです。レモン汁とにんにくで味付け、美味しそうです。
■パスタレシピ研究会/トマトソースパスタ:ペスカトーレ・イカわた入り2
http://pastalabo.cocolog-nifty.com/blog/2005/04/2.html
イカわたを使いたかったのでスルメイカを購入、とのこと。「文句なし。最高です。」との言葉が力強く、ぜひ作ってみたくなります。自己評価も家族評価も最高点。
■ミリアムのキッチン-レシピブログ/イカときゅうりの中華和え
http://milliam1.blog49.fc2.com/blog-entry-270.html
お酒にぴったりですが、意外にご飯にも合います、とのこと。色合いも鮮やかです。
「旬のうまい魚を知る本」 野村祐三 著、東京書籍、2002年
「食材魚貝大百科 第3巻 イカ・タコ類+魚類」多紀保彦ほか監修、
平凡社、2000年
「[食材]魚ハンドブック」 海の幸山の幸研究会 編、池田書店、1996年
「旬の食材 夏の魚」 講談社 編、講談社、2004年