びおの珠玉記事
第201回
筍(たけのこ)、と若布(わかめ) この絶妙なる関係
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2009年04月20日の過去記事より再掲載)
その前に春の山菜採り
山菜シーズンもいよいよ佳境に入りました。
蕗の薹は、凍てつく土を破って芽をだしました。そのあと、せり、よもぎ、こごみ、わさび、ふきなどが、次々に顔をだしてくれました。
たらの芽、わらび、こしあぶら、はりぎり、うどなどは、ソメイヨシノが満開の頃に摘み頃だといわれます。たらの芽は、木が伐採されて地面に陽光が降り注いでいるような場所に群生します。うど、こごみ、かんぞうなどは、適度に湿気があり、ほどよい日当たりの場所を好みます。
図鑑を携行して、植物を観察しながら摘みましょう。
春の山菜は、冬の寒さをこらえて精力を蓄えるためか、アクが多く含まれています。これを食することで、冬の間にカラダの中にたまった毒素を取り去ることができるそうです。
春の山菜の後半の王様、筍は、そういう春の山菜を代表するひとつです。
筍
竹の地下茎から出る若芽をいいます。古くは〈たかんな〉といいました。
食用筍としては孟宗竹(皮は黒班と粗毛におおわれ、時期は3〜4月)が一番多いので、普通、孟宗の芽を筍と呼んでいます。京都乙訓の筍が有名で、高価。地表にワラを敷き、堆肥を厚く敷き込み、その上に土を盛ります。柔らかい筍が地面に顔を出す直前に掘ったものが美味とされます。孟宗竹のほかは、
淡竹(皮は淡紅色で、旬は4〜5月)
苫竹(皮は薄い黒班におおわれます。旬は5〜6月)
真竹(時期は7月)などがあります。
根曲がり竹(別名千島笹/ちしまざさ/きめ細かい歯ざわりが特長。旬は6月)
寒山竹(西南日本に広く分布。旬は7月〜8月)
孟宗竹の選び方
1.頭が緑色の物より黄色のもの
2.節目の間隔が狭いもの
3.根元のイボイボが小さくて、少ないもの
4.根元のイボイボが赤っぽいもの
5.ふっくらと太めのもの
6.中間部がふくらんでいる釣鐘型のもの
釣鐘型のものを雌筍、細めの三角錐のものを雄筍と呼んだりしますが、生物の雄・雌を意味しません。
孟宗は、中国江南地方の原産。日本に移植されたのは1736年。琉球経由で薩摩に移植されました。
若布
若布の「め」は、食用になる海草の総称。
全国の近海で採れます。今回、ご紹介する三陸重茂の天然若布が有名ですが、天然ものは、宮古市周辺の海で採れる若布のうち4%に過ぎません。長さ2メートルに達するものだそうです。
島根県出雲地方では、幼い若布を簀の上に並べて干し(それを“めのは”といいます)、炙って手で揉み、ご飯に掛けて食べます。
茎の両側は肉厚で、粘質です。そこを布株といいます。それをすってとろろ汁のようにして食べるのを「めかぶとろろ」と言います。
筍と若布のたいたん
「たいたん」というのは大阪弁。炊いたもの、といった意味。関西のよき居酒屋に入ると、この時期、薄口醤油で煮込まれた「筍と若布のたいたん」や「筍とわらびのたいたん」といったメニューが出ていて、うれしくなります。
じっくり煮込まれた筍と若布のたいたんは、二つの素材が絡み合い、味が滲み込み合っていて、すこぶるおいしい。若布が、どろっとした状態まで煮込まれたものは、料理としては体裁が悪く、どうかと思われるが、白いご飯に掛けて食べるとたまりません。ひじきや魚の煮汁をご飯に掛けるのと一緒で、この至悦を知ったものは、春になるとそれを食したくなるのです。
岩手県宮古・重茂漁業協同組合直販の天然若布
重茂は、岩手県沿岸部中央の南端に位置し、外洋に突き出した本州最東端の半島です。入り江と三陸特有のリアス式海岸にあり、沖合いは、親潮と黒潮が交錯する栄養塩が豊かな絶好の漁場。その海に育まれ成長した天然わかめが直販でお求めできます。
わかめは昔から若布、若芽、若女などと呼ばれ、若さを保つ食品として珍重されてきました。海藻の中でも最も多くのカルシウムを含み、新陳代謝を活発化し、ヨード、ミネラル、ビタミン類など活力源がたっぷりで、酸性体質改善にぴったりの天然アルカリ性食品といわれています。美容、高血圧予防、老化防止はもとより、糖尿性体質の改善、子どもの発育にも欠かせない健康食品です。
おいしいわかめは、波おだやかな海ではなく、激しい潮流、海水の移動が多い荒波や外海などで育成します。太平洋に突き出た重茂半島は、親潮と黒潮がぶつかる荒磯地域です。おいしいわかめが育成する条件にぴったりのところです。
たけのこ掘りは初めてではありませんでしたが、プロの道具でプロの指導のもと ちゃんとした「たけのこ掘り」をはじめて経験しました。ちょっとうれしくなって ウンチクをレポートします。
成田―東京間は、ガイジンの気分 で景色を観察すると、竹林の多さ が目につきます。京都や貝塚の筍が珍重されますが、千葉県の大多喜というところも「たけのこ狩り」の観光農園もあり、筍で有名なところです。そんな千葉県大多喜町で「たけのこ狩り」の機会を得ました。
竹林の増殖防止、環境整備補助を名目に、現地移住15年目という、従姉の旦那さんの叔母さんの家に派遣されました。裏庭に畑と竹林、南斜面の竹林を望むところに、常設のBBQキャンプサイト(タープの屋外リビングルーム…というかんじ)竹林の崖下の小川(沢)までが敷地とのこと、自宅裏庭で、ちょっとした冒険と「たけのこ狩り」が楽しめる感じは、田舎ならではの贅沢です。
筍は、ふわふわの竹林を静かに歩き、足の裏で探し当てます。プロはやたらに歩き回ったりすることな く、狙いを定めて探り当てます。足の裏に付きあげる感触のあるところの落葉・枯れ笹をかき分けると、 筍の頭が確認できます。この筍、先端を観察すると「トサカ」のような固い芽が一列に並んでいるのが分かります。しかもその先端部はごくわずか、微妙に傾いているのが分かります。なんと親竹につながる地下茎はこの方向に必ずあるのだそうです。これが分かればその地下茎側を、プロの道具「たけのこ鍬」で掘り、その地下茎を切って根本に「たけのこ鍬」を滑り込ませ、テコの要領で地面から押し出す 感じで掘り出します。
4人1時間で段ボール箱5個分の収穫。売れるくらいの量でした。しかし慣れない作業に、翌日は足腰ガタガタ。堀たて1時間はそのまま喰える?と生で食べてみましたがイマイチ(いわゆる筍の刺身…というのはただゆでただけのもののことらしい) 何といっても竹林ならではの堀たて美味は、まるまんまの蒸し焼きでした。朝から焚き火、オキの中に堀たてを皮ごとまるまんま、焼き芋の要領で蒸し焼きすること1時間あまり…縦に切り開いて、喰える部分にかじりつきます。おーーこれだったのかとはじめての美味は、甘いトウモロコシのような、ほくほくしたお芋のような、お豆のような…そう、最も似ていたのはアーティチョーク(イタリアのカル チョーフィ)竹林ならではの美味でした。しこたま流した汗をビールに換えてご機嫌。