世界のキッチン おじゃまします!
配給制度が残る国・キューバで見た6つのキッチン
キッチンは個人の料理の好き・嫌いに関わらず、必ずと言っていいほど家の中にある。どんなに小さい居住空間でもキッチンは欠かすことのできない存在だ。このキッチンに付随する炊事機能は世界共通だが、国が変われば料理が変わり、それに従って設えや暮らしのなかでの立ち位置も異なるのではないだろうか。その国の暮らしをキッチンから覗いてみようと思い、最初は社会主義国・キューバで取材することにした。現地で思わぬ縁がつながり取材した「6つのキッチン」から見えてきたのは、キューバの人びとの、小さい空間を上手に工夫して使う柔軟さと物がなくても自分たちで発明してしまう賢明さ、そして料理がキューバの人にとって非常に日常的な行為ということだった。
Vol.3 必要なものは自分で作る。
着火道具まで自作するDIYキッチン
妻の料理と夫のDIY。
二人三脚の食卓
キューバで3件目に取材したのは、前回のユキさんに紹介してもらったお隣のご夫婦、妻のアイマラさんと夫のマジートさんだ。今回も最初の取材同様の突撃取材にもかかわらず、「もちろんどうそ」と快諾してくださった。改めてキューバの人は本当にあたたかく、人の距離が近いと感じた。さっそく、お部屋におじゃました。
玄関を入ると正面に小さなリビングがあり、左手がキッチン、奥が寝室になっている。ユキさんのお部屋と同じく天井が高くて気持ちがいい。L字形のこぢんまりとしたキッチンは使い勝手が良さそうだ。アイマラさんは普段飲食店の経理として働かれているそうだが、通訳のお仕事も経験されていて、英語が堪能。今日の献立とお料理について伺った。
「今日は典型的なキューバ料理を作っていますよ。ご飯と豆のポタージュ、お肉の煮込みなどです。楽しみにしていてくださいね。
夫のマジートと二人で暮らしていて、普段の食事はだいたい私が作りますね。料理は母から学びました。朝昼晩の食事は基本的にキューバ料理中心ですが、フライドライスやスパゲティなども作ります。」
お話の途中でアイマラさんがバナナフリットを二度揚げするためにコンロに火をつけようと、おもむろに壁からクルクルとした電話線の先にペンがついたようなものを手に取った。それでコンロの火口を突くとあっという間に火がついた。
私は初めて見た光景に「え、どうして火がつくの!というか、それなに?!」と騒いでいると「マジートが作ってくれたもので、私もよくわからないのよ。」と笑っていた。隣の部屋にいたマジートさんが顔を出してくれて、電話機を改造し電話線の先から火花が出るような構造になっていると説明してくれた。
話を聞くとマジートさんは建築関係のお仕事をされていて、電気関係の資格も持っているそう。通りでDIYが得意なわけだ。ちなみに、前回紹介したユキさんの部屋を直したのもマジートさん。
加えてキッチンとリビングを仕切る壁のアーチと、スノーボードのような形のグラスラック(写真右手)もマジートさんがDIYしたものだという。DIYの腕は生半可ではないが、特に自慢することもなく、驚いている私を逆に少し不思議に思っているようにもみえた。
キューバにはそもそも物が少なく、身の回りのものをDIYするのは珍しいことではないらしい。物が飽和状態の国に生きる私には「ないなら作ろう」とDIYしてしまう賢明さが魅力的に映った。
異国の地で心落ち着く一夜
食事が完成し、アイマラさんと横並びになって食べた。お肉の煮込みは豚肉、鶏肉、ベーコンの3種類が一緒になっていて初めて食べる味だったが、それぞれのうまみが凝縮していてとてもおいしかった。バナナフリットは完熟したもので作ると甘酸っぱい味になり、未完熟のもので作るとポテトのようなほくほくとした食感になる。異国にいるのに、なんだかとても安心する料理だった。
食事が終わると、マジートさんがキューバの名産品・ラム酒とコーラを割ったお酒「キューバリブレ」を作ってくれた。エキゾチックな味がしておいしい。お酒を飲みながらゆるゆると話していると、いつの間にかお隣さんまで出てきて、おしゃべりに加わった。人々がただ話しているだけの光景なのだが、私はずっと見ていたい気持ちになった。
次回は、ユキさんのお話にも出てきたお隣のおばあちゃんのキッチンを紹介したい。キューバ革命時代を生き抜いたおばあちゃんのキッチン、どうぞお楽しみに。