びおの珠玉記事
第54回
山椒とアゲハ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年05月26日の過去記事より再掲載)
実山椒の季節がやってきました。
「山椒は小粒でもぴりりと辛い」などといいますが、実際の山椒は、辛さというよりも、その痲れるような刺激が堪えられません。
食欲増進や腐敗の予防といった効果も知られていますが、何より料理に山椒が加わることで、食材の味がぐっと深くなり、広がります。
「麻婆豆腐」の「麻」は、この刺激を表す言葉で、本場のものには花椒がどっさり入っています。花椒は山椒の近縁で、その実を干したものです。
日本の麻婆豆腐は唐辛子の辛さ(辣味)ばかりが目立ちますが、花椒の刺激(麻味)とあわさることで、ただ辛いだけでない料理が出来上がります。
山椒は、マージャンでいうドラのようなもの、といったら失礼でしょうか。
それだけで役にはならないけれど、他の食材と組み合わせると一気に得点が高くなります。
ちりめん山椒、なんていうのはその典型ですね。
花椒は中華食材として比較的手に入りやすいのですが、実山椒は、この時期しか出回りません。
収穫した実もすぐに傷みはじめますから、できるだけ早く下処理を施しましょう。
とはいえ、実山椒についている小さな枝をしっかり処理しようとすると、ずいぶん手間がかかります。ここはひとつ、ちょっと手を抜いてしまいましょう。
山椒の下処理のコツ
洗って汚れを落としたら、小枝はそのまま、沸騰したお湯に投入します。
しばらく沸騰させたら、ザルにあげて水気を切ります。そのまま佃煮等にする場合は、長目に茹でたほうがよいようですが、今回は一旦冷凍し、後ほど使うときにまた加熱もするので、沸騰時間は短めで(1分ぐらいで上げました)。そのほうが色も鮮やかです。
このまま、小分けにして凍らせてしまいます。
あとは利用するときに、手にとってグルグルとこするように揉めば、小枝はポロッと取れてくれます。生の状態で取るよりも、だいぶ楽ちんです。
山椒は小粒でもぴりりと辛い
この言葉は、江戸時代にはすでに使われていたようです。縄文時代の遺跡からも山椒の形跡が見つかっていて、ずいぶん昔から使われていた食べ物であることがわかっています。
けれど、今の食卓では、それほど目立つ存在ではありません。実山椒の出番というと、ちりめん山椒ぐらいしか思い浮かばない、という人もいるのではないでしょうか。でも騙されたと思って、いろんな食べ物にあわせてみてください。
この爽やかに抜けるような刺激は、まさに「少し酒ほしき」。酒を飲まない人も、もちろんどうぞ。
山椒とアゲハ
山椒は、ミカン科の低木です。いわゆる柑橘類の一種です。
柑橘類の木には、決まってアゲハチョウがやってきます。
アゲハはどうやって柑橘類を見つけるのでしょうか。香りやフェロモン、あるいは蝶には見えているという紫外線など、私たちには知ることの出来ない感覚で、どこからともなく、柑橘類の木にやってきます。
アゲハチョウの、特に雌の脚には、「味見」をする器官が備わっていることがわかってきたそうです。アゲハは、我が子を産み付ける木を、その脚で探しているのです。
孵化した幼虫は、最初に食べた種類の葉しか食べないという習性があります。間違った木に産卵してしまったら、幼虫は食いっぱぐれてしまいますから、アゲハの親は、きちんと味見をして、柑橘類の木に卵を産んでいくのです。
柑橘類を、作物という視点で見たらアゲハの幼虫は害虫です。結構な勢いでムシャムシャと葉を食べてしまいます。
その虫を狙って、鳥がやってきます。アゲハの幼虫は、弄るとオレンジ色の、臭い角を出します。この臭いで鳥を追い払う、らしいですが、こと我が家の庭の場合(山椒ではなく、柚子ですが)でいうと、たいていの幼虫は、いつの間にかいなくなってしまいます。ここでどういう結果になるのかは、鳥の数と虫の数、他の天敵の数のバランス次第なのでしょう。
柑橘類は欲しいけれど、アゲハに食べられるのは嫌。アゲハが来たら嬉しいけど、鳥に食べられるのは嫌。どこに価値を置くかは、人それぞれではありますが、多様であること、変化することが美しく楽しい庭だ、と考えるなら、アゲハチョウも、それを狙う鳥もまた、歓迎すべき住人といえるのではないでしょうか。
寺山修司が受験生時代に詠んだ句です。
当時の教師は今より厳格な存在でした。大揚羽は、その教師とある意味共通の存在として描かれているのでしょうか。
ともあれ、実山椒の旬は短い。入手は急いで!