びおの珠玉記事

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イチゴ

※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2015年05月01日の過去記事より再掲載)

子供が持った苺

折にふれて取り上げているように、イチゴの旬は決してクリスマスシーズンではありません。種類や季節にもよりますが、本来は初夏がイチゴの本来の旬です。

すっかり冬の果物のようになってしまったイチゴですが、実はもう一つ勘違い(?)が。実は果物でもない、というのです。
大きな苺がなった苗
農林水産省は「野菜」の定義に以下の4つをあげています。

田畑に栽培されること(栽培されていない山菜などは野菜と区別することが多い)
副食物であること
加工を前提としないこと(こんにゃくのような加工を前提とするものは野菜としていない。漬物のように原料形質がはっきり残っているものや家庭における簡易加工は加工に含まない)
草本性であること

イチゴは、たしかに全ての項目に当てはまります(ところで、なるほど米(稲)は副食物ではないので野菜ではないわけですね。)。

さて、果樹の定義は、

概ね2年以上栽培する草本植物及び木本植物であって、果実を食用とするもの

とされています。イチゴは草本ですが、多年草です。ですから、こちらの定義にもあてはまりそう、と思いきや、栽培されているイチゴは、1年目で収穫をしたら植え替えるのが一般的で、そうなるとこの定義には当てはまらない。というわけで、イチゴは果樹ではない。つまり野菜、というわけです。

この定義だと、スイカもメロンも野菜です。一方で、栗や梅は果樹、ということになります。
さらにややこしいことに、イチゴやスイカ、メロンなどは、果実的野菜、と呼ぶのだとか。
苺りんごビワ生姜
これはあくまで農水省の定義です。市場や販売店は、そういう見方はしていません。イチゴは野菜売場ではなく、果物売場に売ってますもんね。

中国の知人に聞くと、熱を通して食べるのが野菜、冷たいまま食べるのが果物、という答えが帰ってきました。なるほどそういう見方もあるのか。

そういうわけで、イチゴは野菜説もありますが、食べる側としては、それでは何の得もないので、やっぱりイチゴは果物で!

イチゴの品種

紅ほっぺ苺

静岡の紅ほっぺ

イチゴはもともと自然界にはなかった植物で、人為的交配で作られたものです。現在でも品種改良が盛んです。ひとつの品種が生み出され、流通するのには10年ほどかかるといわれてます。
福岡の「あまおう」は、あまい、まるい、おおきい、うまい、の頭文字をとった品種で、香港など海外でも人気です。香港には産地から2日で店頭に並ぶといいます。あまおうは、福岡県のみで栽培が許されている品種なので、東京へ運ぶのと変わらない鮮度で香港でも食べられる、というわけですね。

この「あまおう」は、果物としてだけでなく、飲み物や果実酒などの分野でも商標を取得し、他県で栽培させないという面も含めてブランドを構築しています(菓子・パンは他者に取られてしまっているみたいですが)。

栃木の「とちおとめ」は、あまおうとはまったく違った戦略をとっています。商標は取得せず、品種登録として「とちおとめ」の名を使っています(あまおうの品種名は「福岡S6号」)。とちおとめは商標ではなく、品種をあらわす普通名称で、誰でも使っていいよ、というやり方です。他県での栽培も認めていて、多くの人に広く流通させよう、というやり方です。

味で勝負してほしい、といいたいところですが、それでも消費者に届かないことにはどうにもなりませんからね。

イチゴはハウス栽培が主流になっていますが、露地ろじからハウスへ栽培の場が移った後、奇形果が増加し、栽培上の課題になりました。
この理由は、どうやら人工的に受粉させることにあったようです。露地栽培では、風や昆虫によって受粉できますが、ハウスではそういったものはありませんから、人の手によって受粉させる必要がありました。
苺狩り
イチゴは見かけどおりデリケートなのか、人出の受粉では奇形になってしまうようなのです。結局、ミツバチを施設内に放すことで受粉を誘う、という方式が考案され、現在も主流となっています。工場生産のようなイチゴでも、ミツバチの手を借りなければ作れない、というのは、微笑ましいような、皮肉のような。
苺の受粉を手伝うミツバチ

イチゴと蜂蜜

イチゴにブランデーと蜂蜜をかけて冷やし、レモンを搾っていただくという食べ方。イチゴの花からは蜂蜜が出来ませんが、イチゴとミツバチの協働に敬意を表して(そのまま食べたほうが美味しい、なんて野暮は、いいっこなし)。
苺のコックテイル

旬も名残りへ。甘〜いイチゴを食べよう!
手に持った苺