びおの珠玉記事
第65回
蕃藷、唐いも、琉球いも、九州いも。サツマイモの話。
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから再掲載しました。
(2011年09月13日の過去記事より再掲載)
今回のテーマは、秋から冬にかけて最盛期を迎えるサツマイモです。
漢字で書くと、「薩摩芋」。薩摩、現在の鹿児島県が、名前の由来になっています。
そうはいっても、サツマイモは鹿児島原産というわけではありません。
たくさんある、サツマイモの呼び名
朱薯、赤いも、白いも、紫いもといった色を表す表現や、甘藷、にんじんいも、砂糖藷、饅頭藷といった味を表現した呼び名があります。
江戸時代につけられた「十三里」という呼び名は、「栗より(九里四里)うまい」で、十三里、という、洒落の好きな江戸っ子らしい表現です。
いっぽうで、「八里半」という呼び名もあり、これは栗(九里)に少しおとる、という見方です。
琉球いも、唐いも、長崎いも、九州いも、アメリカいもといった呼び名もあります。これらはすべて、原産地ではなく、サツマイモと同様に、伝わってきた元の場所が呼び名になっています。
サツマイモの伝来
琉球、薩摩、長崎といった名前を見ると、日本には南の方から入ってきたようです。
唐いもという呼び名もあるように、中国から、沖縄、九州に伝来したといわれています。
中国でのサツマイモの呼び方に、蕃藷というものがあります。これは南蕃(中国の南方の外国)から伝わったことを記しています。
サツマイモは、生でも食べられる航海食として、大航海時代に重用されました。コロンブスの航海日誌にも、芋のことが記録されています。
波に揺られる船では火が使えず、生で食べられて保存が効くものが求められていました。野菜や果物はすぐに腐ってしまいますが、サツマイモは船の中でも腐らず、生でも食べられます。
この時代の航海では、壊血病が恐れられていましたが、サツマイモを食べていると、壊血病にかかりにくいこともあり、サツマイモは船乗りに欠かせない食べ物になりました。
サツマイモがあったからこそ、大航海時代が訪れたといってもいいかもしれません。
こうしてサツマイモは、原産地の南米から、大西洋をわたってヨーロッパに、そしてアフリカ・喜望峰を越えてアジアにもたらされたようです。
日本には、17世紀初めに中国から琉球、九州に伝わりました。
八代将軍徳川吉宗に飢饉対策を命じられた青木昆陽が、関東地方にサツマイモを広め、飢饉の際に多くの人命を救ったという逸話は有名です。
アメリカいもは、日本人が直接アメリカから持ち帰った種類です。
サツマイモは、繁殖力が強く育てやすいこと、保存性も高いことから、飢饉や食糧難の際の救世主になることがしばしばありました。
第二次大戦・戦後を経験した年配者には、サツマイモは戦後の食糧難のときにイヤというほど食べた、という方もいるようです。
このように、古くは救荒作物としての扱いでした。
サツマイモの栄養
飽食の現代においては、サツマイモは一般の野菜として、また天然のスイーツとして用いられるようになりました。
サツマイモには、カリウム、鉄、マンガンといったミネラル類が豊富に含まれるほか、ビタミンもDとKを除いてはバランスよく含まれています。サツマイモのビタミンCは加熱しても壊れにくいため、ビタミンCが多く取れる食材としても知られています。
食物繊維が豊富なことから、便秘の解消、大腸癌の予防なども期待できます。
同じ量のご飯よりもカロリーが少ないため、炭水化物として、白米の代わりにサツマイモを食べる、というダイエット方法もあるようです。
ただ、ご飯よりは少ないとはいえ、野菜としてはカロリーが高いので、食べ過ぎには注意しましょう。
カロリー以外にも、サツマイモで注意したいのは、おならです。
サツマイモのでんぷんは、ご飯よりも消化しづらく、胃や小腸で消化しきれなかったものが、大腸に届き、そこで腸内細菌の栄養源となり、そこでガスが発生すると考えられています。
皮ごと食べると、皮の裏に含まれるヤラピンという消化酵素の働きで、早めに消化されて、おならが出にくくなるようです。
今回はかなりたくさんのサツマイモを食べましたが、皮も一緒に食べたので、たしかにおならが出なかった、かな?
サツマイモをご飯のおかずに
サツマイモは、その甘味が特徴で、大学芋、きんとんといった料理が代表的です。
今回はそうしたスイーツ系ではなく、サツマイモをご飯のおかずにする、ということをテーマに、3品つくってみました。
サツマイモは、60℃程度の温度で長時間調理すると、でんぷんが糖質に変わり甘味が出ます。
この逆をついて、高温で一気に調理すれば、甘味を抑えたおかず向け料理ができるのではと考えました。
挽肉をよく炒めた後に、少し薄目の乱切りにしたサツマイモを投入。ざっと火を通したら、酒・醤油・味醂をひたひたになるぐらい入れて、強火で水分を飛ばしながら炒めます。
調理時間が短かったので、芋にあまり味がしみませんでした。
皮を厚めにむいて、適当な大きさに切った芋をゆでます。やわらかくなったら水を捨てて、芋を潰します。裏漉しするとなめらかになると思いますが、今回はハンドブレンダーで荒っぽくかき混ぜました。
牛乳と塩で味を整えて、一煮立ちさせたら出来上がり。思ったより甘くなりませんでした。
ポタージュで厚めにむいた皮は、きんぴらにします。最初に多めの油で炒めて、醤油と酒を絡めましたが、ちょっと歯応えがやわらかくなってしまいました。
ポリポリと、ついつい手が出てしまいますよ。
今回は、つるの部分が手に入らず、芋本体の料理だけでしたが、つるもほんのりサツマイモの味がします。皮を剥いて醤油で炒めると、大変美味です。
焚き火はできない?
秋が深まり、落葉のシーズンになると、焚き火で焼き芋、というのがかつての定番でしたが、最近は落葉を集めて焼いている様子を見ることがすっかり減りました。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律で、廃棄物の焼却が禁じられています。また、市町村の条例で、防火上の理由から焚き火を禁止したり、届出が必要などの制限をしていることがあります。
住宅密集地では、焚き火で焼き芋、というのはかなり難しくなってきているのが現実です。
それでは家庭で焼き芋は食べられないのでしょうか? そんなことはありません。薪ストーブやペレットストーブといった暖房器具があれば、そこで焼き芋ができてしまいます。
残暑が戻ってきたような陽気になって、焚き火やストーブの想像をするにはちょっと早いかもしれませんが、焼き芋が出来る環境にある方は、ぜひお楽しみください。
写真はちいきのたよりでもおなじみの「マクスの社長blog」から、薪ストーブで焼いた焼き芋です。美味しそう!
参考
さつまいも史話(木村三千人著 創風社出版)
旬の食材 秋・冬の野菜(講談社)