あるものをいかす、ともにつくる
ところかわれば
| 森弘子
今回は、前回ご紹介した北海道恵庭にサウナ小屋を建てるプロジェクトをともに進めている村上智彦さんをご紹介します。
村上さんは北海道恵庭生まれ。札幌で建築デザインを学んだあと、宮大工として主に関西で修行を積まれましたが、生まれ故郷の恵庭を拠点に、大工・建築家・デザイナーとしてだけでなく、ワークショップを主催したり、人が集まる場も運営するなど、活動は多岐にわたっています。
2012年に地元恵庭に戻り、たまたま見つけてひとめぼれした農家の空き家を自らの手で直し、GEN COMPANYとして活動を開始。空き家は「とものいえ」と名付けられ、納屋は工房に、庭には畑がつくられました。リノベーションの際には、GEN COMPANYの理念、「あるものをいかす」「ともにつくる」を実践し、解体現場で出てきたフローリングからテーブルトップ(何とボウリングレーン!)まであますとこなく使われています。
その理念は村上家の生活そのものにもあらわれています。食材は主に畑で取れる新鮮な野菜をメインに、料理上手な奥様・道子さんの手で美味しい料理に変身します。「あるものをいかす」、その徹底ぶりに驚いたのが雪で埋もれる冬にも、夏場に採れた野菜を冬に向けて準備した保存食品をメインに乗り切ること。8月に訪れた際には大きなホーローのお鍋にたっぷりのトマトソースが冬のために仕込まれていました。もちろん野菜クズは畑の肥料に。現場で廃材となった木材は持ち帰りストーブへ、鼻をかんだティッシュやゴミも燃料になります。
まさに「あるものをいかす」で、はじまった村上さんのプロジェクトのひとつが「ARAMAKI」。北海道のお歳暮の定番、新巻鮭の空き箱が役目を終えたあと、使われずにいるところに目をつけ、空き箱の端材からさまざまなプロダクトをつくっています。木材に印字された文字に味がありかっこいい。プロダクトのデザインもぐっと引きしまります。ティッシュケースからバッグ、そして同じ恵庭に在住しているARAMAKIをともに運営されているギター職人の鹿川さんによるウクレレならぬシャケレレも。Webショップには犬小屋、ツリーハウスまで販売されています。今夏建設をはじめたサウナ小屋でも、どこかに鮭箱が使われる予定です。
村上さんのもう一つの活動がDIYワークショップの「とものいえづくり」。家一軒丸ごとリノベーションすることを通して、2016年・2017年と2年間にわたり計19回のワークショップを開催しました。そこは現在ではイベントスペース兼宿泊スペースとして使われている「とものいえ2」となっていて、私もサウナの建設で7月に滞在した時にトークイベントをさせていただきました。最初は一部を解体するところからはじめ、床を貼り替え、壁を塗り・・・最後は家具を作るところまで。ワークショップでは、参加する人たちが用意された工具を手にして指導を元に手を動かすだけでなく、村上さんにその作業に関連する周辺の知識も合わせて教えてもらうことで、実際に自分でつくるときにもいかし、応用することができます。ワークショップの合間には、とものいえのイベントには欠かせない、とものいえの庭の畑で採れた野菜を中心にした美味しいごはんもふるまわれます。ただ教えてもらって帰るのではなく、次にいかしたり、たのしい体験として記憶に残るワークショップが村上さんの「とものいえづくり」です。
村上さんの活動や理念が気になった方は、ぜひウェブサイトをのぞいてみてください。それぞれのプロジェクトのプロセスを写真で見ることができ、さらには「詳しく読む」アイコンをクリックすると、村上さんが語るプロジェクトのストーリーを読むことができます。大工としてだけではなく、さまざまな活動をしているからこその視野の広い眼差しからみたそれぞれのストーリーは、写真と合わせて読むと、まるで村上さんに現場を案内してもらっているかのように感じられると思います。また、ARAMAKIは別のウェブサイトがあり、プロダクトも一覧で見る事ができます。ぜひそれぞれのぞいてみてはいかがでしょうか?
村上智彦さん プロフィール
GEN COMPANY代表。大工、二級建築士、一級古民家鑑定士。
1978年北海道恵庭市生まれ。札幌市立高等専門学校インダストリアルデザイン学科建築デザインコース卒。関西を中心に社寺建築の世界に携わり、2012年から恵庭市に拠点を移し、社寺建築の伝統的な技術と知識、デザインを軸に、大工・建築家・デザイナーという立場を行き来しながら幅広く活動している。
GEN COMPANY https://gencompany.net/
ARAMAKI http://aramaki.world/